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雲行き怪しい午後の日に

二次創作main…日和、VOCALOID率高め   稀に掌アリ
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  • 03/16/04:30

運命(仮)第二章

 僕は台所へと向かう。最悪な思い出を思い出していると、心もブルーになっていく。だけど、あの人の笑顔を見れるならそれだけでもいい気がする。いつの間にか嵌っているのだ。僕は彼女に、そして、彼女は僕に……。
 やはり太子と言ったところでカレーの具材が全て揃っている。少しだけ感動した僕は、包丁を手にする。木の板を下敷きにし、色々と切っていく。先ずは野菜を煮込み、肉に火を通す。そして、スパイスを色々と組み合わせて、凡そ一時間程度で完成した。僕の額には汗が滲み出ている。
 ふうっと一息つき、庭でぐーたら四葉のクローバーを眺め座っている太子の元へと向かう。

「太子、カレー出来ましたよ」

 やはり縁側には太子の姿があった。其の丸まった背中は一時間前とは全く変わっていない。彼女は一気に後ろを振り返り、満面の笑みを浮かべた。一応、一人前にしておいた。太子には悪いがカレーはあまり好きではない。少しだけ臭いし辛いし何だか口にあわない。

「いただきまーすっ」

 手を合わせたと思ったら直ぐに口にいれている。其れは飲み込んでいるに等しく、水を用意するのを忘れた僕は台所へと向かった。喉にご飯を詰まらせたら非常に面倒だからだ。それに朝廷の役人がみんな、僕のせいだと咎めるに違いない。それだけだったらいいのだが、太子をよく思っていない人々の歓声を聞くと、自分の身が持たないと思う。彼女自身のため、僕自身のために、太子を守らなくてはならない。
 僕は大急ぎで水を持っていく。鱈腹食べた彼女はお腹を膨らませ、パンパンになったお腹を撫でている。全く太子らしい。

「水です」
「遅いぞ、妹子っ! ま、有難うな」

 と、また笑みを浮かべてコップを取る。すると、手が重なり合わさる。太子は何も感じない様子で其の儘さっと僕の手から奪う。僕はなんて乙女なんだろう。顔が赤く染まっていく。太子に気づかれないようにそっぽを向くことにした。すると、黒い影が草葉から草葉へ移り変わったのが見える。嫌な事態が発生したのかもしれない。

「どーしたの、妹子。眉間に皺寄せて」

 余程、怖い顔をしているのだろう。彼女は心配そうに上目遣いで僕を見てくる。少しだけ胸が高鳴ったが、そんなこと気にしている暇は無い。「何でもないです」と微笑む。すると、また彼女の悪い癖。というか、僕が嫌いな言葉を浴びせてきた。

「かんわいーっ」

 男に可愛いと言うのは失礼なこと、と教えているのに全く彼女は分かってくれない。けれども、突っ込む猶予はなさそうだった。草葉に隠れていた黒い影が、密かに太子に近づいていっている。姿は見えないが、耳を澄ましたら足音が微かだが聞こえる。剣もない状態で如何やって守るというのだろう。しかし、僕は太子を守らなければならない。なので、太子に背中を向け、黒い影に腹を見せた。例え、剣でどこかを刺されたって死ぬもんか。けれど、怖くて足が竦む。黒い影らしきものは動きを止めた。すると、姿が見える。とても小柄だが、顔は覆面で覆い隠されて見えないし、服装も真っ黒で忍者のようだ。僕は怖気ずに精一杯睨みつける。

「何奴っ!」
「……」

 構えもせずそこに突っ立っているだけ。まるで壊れた人形のようで、心が無いようだ。恐らく覆面の下には無表情が潜んでいるだろう。人間の姿をしている化け物に違いない。と考えると、やはり足が竦む。毎日鍛えているからって凶器を持ち合わしているかもしれない不審な人物と争えるわけない。出来るとしたら、命を捨てても太子を守ることだけ。今、太子がどんな表情をしているのか分からない。卒倒しているかもしれないし、呆然としているかもしれない。でも、命だけは僕の力でお守りしなくては。

「去れ、此処はお主が来る所ではない」
「……」
「早くしろ! さもなくば、お主の首を取って……」
「いし……殺……」

 男らしき低い声が微かだが聞こえてくる。しかも、剣まできっちりと構え始めた。これは本当に大変なことになるかもしれない。

「太子暗殺」

 はっきりとそう聞こえた。すると、僕は肩に刀を刺されていた。忍者らしき者の顔が微かだが見えたような気がする。しかし、もうこの世にいない僕には如何でもいいことだ。そうだ、最後に聞こえたのは太子の声だった。

「妹子おおおおおおおおおおっ」

.

 何故か、体は軽かった。赤黒いその世界はとても恐ろしいものでまるで地獄を連想させた。音が響いていないし、人の気配もない。漠然とした記憶が無く、僕が「小野妹子」ということしか思い出せない。だけど、真っ直ぐに進むしかない。怖かったし今すぐにでも夢だと思いたかったがそうにもいかない。何かを思い出して、其れで元の世界に戻らなくては。ただ、そう思った。
 僕が近づくと閉じられていた扉は開かれた。今まで光のような明るいものは無かった。確かに、暗くも無かったけれどこう視界が広がるような光は存在しなかった。なれない光に目がやられたが、直ぐに視力は元に戻る。すると、奥に人の姿が合った。黒い服を着て、足組をして頬杖をついている男と、頭に二本の角を生やしてすまし顔をしている男。見詰め合う時間が続く。如何やって言葉にしていいか分からない、其のとき、堂々と座っている男が高らかに声を上げた。

「お前は天国だ!」
「……え?」

 若しかして、これが地獄の番人、「閻魔大王」なのか。嘘を吐くものの舌を切り、恐ろしい形相をしている閻魔大王がこんなにほそっこくて人間に近くて優しいまなざしをしているのか。疑問が次々と頭を掠める。すると、隣にいる男はふうっと深いため息をつき、爪を閻魔大王らしき者に刺した。

「大王。今度は殺りますよ」
「す、すみません……ちょっとふざけすぎました」

 確かこの遣り取りは何処かで見たような気がする。懐かしい記憶か、其れともただの気まぐれか。なんにしても良かった。僕は此処から抜け出したい、元に戻りたいのだ。

「あの、此処は何処ですか?」

 大王に質問したつもりだが、横に立っている……秘書であろう者が、僕の質問に無表情で答える。

「此処は冥界です。貴方は死にました」
「お、鬼男くん……なんで私の台詞をそう易々と奪うかなあ?」
「貴方が説明することはもっと他にあるので」
「あ、あのぉ」

 「すまんすまん」と困ったように微笑む大王。隣にいる、おにおくんはツンと澄ましている。何だか、台詞とか色々決められているようだ。でも、一番突っかかっているのは、此処が冥界で僕がもう亡くなっているってこと。だから、先程、大王は胸を張って堂々と「天国」と判定したのだろうか。

「色々と疑問は持ち合わせているようだけど、時間が無い。簡単に説明しよう。君は死んだ。でも、生き返ることは出来る」
「何でっていう顔……してるな。其れは私が閻魔大王で、君の元に戻りたいっていう気持ちが強いからだよ」

 その優しい言葉を聞くと、何故か涙がこみ上げてきた。拭いてると、結界のような物が張られる。痛みが生じたが、徐々に心地よくなってきた。次第に記憶が鮮明に思い出される。そして、僕の存在が此処にはなくなる。つまり、元の世界に戻れる……というよりも生き返れる。

「それじゃあ、厩戸皇子の命を救ってまた此処に来てくれ。助っ人は数々用意してる。朝廷は直に焼かれる……が、生き延びられるだろう」

 大王が言ってることが聞こえなくなってきた。

「大丈夫。厩戸とお前は死なない。このままのストーリーで行くとな。じゃあ」

 すっと、僕は消えた。

.

「大王……。嘘吐いていいんですか」
「嘘は吐いていいときと吐いちゃいけないときがあるんだ。今は吐いていいときだよ」
「……」
「そんな悲しい顔、しないでよ。俺はもう、過ちは繰り返さないよ。だから、彼を此処に呼び寄せたんだ」
「……」
「俺のシナリオでいくと、彼はもう一度、死ぬけどね」

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アトガキ

微風のイタズラ

 ふんわりとした微風が吹く。
 いつものように、河原でサイン会をしている。
 隣には寝息を静かに立てている、マネージャー。そして、頬杖をついて隣で野球をしている少年たちを見つめているのが、私。とても退屈そうでため息をついてる……なんていうのは内緒。
 かきーん、あ、ホームランだ。
 しかし、こっちにボールが来る気配はない。嗚呼、なんとも退屈なのだろう。
 しかも……サイン会には誰も来ない始末だ。昨日まで来ていた幼児達にも呆れられたのだろう。くそう、舐められたものだ。
 とてもとても不幸な私。もう、ポジティヴになんて生きていけない。このまま、アイドル人生を絶ってしまっても構わないのかなあ。なんて思って、ため息をついてみるテスト。しかし、何も解決されなかった。ただ、ぽっかりと穴が開いた。それだけだ。
 もう気が狂ってしまえ! と思い、首をぶんぶんと振ってみた。はたから見ればおかいな人。それでもいい、私の思いがこの空のように晴れるのなら、空っぽになれるのなら!

「サキちゃん……なあにしてるの」

 おっとりとした声。ああ、マネージャーだ。

「な、なんでもないです」

 私は何時も以上に素っ気無く答えてみた。マネージャーは「そうか」といってまた寝る……というのがいつものパターンなのだけれど、今日はなぜか違う行動に出た。私の頭を撫でながら、諭すようにこういったのだ。

「あんまり、無茶すんなよ」

 かぁっと顔が赤く染まっていくのが分かる。如何しよう、胸も高鳴ってきた。口を動かそうとすると、急にマネージャーは寝てしまった。今ではすっかり、寝息をたててしまっている。本当に暢気だ。
 しかし、それでもいい。何だか、空っぽだった心が満たされた、そんな気がしたから。
 微風がまた、吹く。草を靡かせ、川の流れを穏やかにしながら。そして、彼の髪を揺らしながら、通り過ぎる。
 まるで、それは微風のイタズラ。可愛い可愛い、小さなイタズラ。

「よおしっ、頑張らなくちゃ」

 誰にも、負けないように。


「サキちゃんイズなんばーわんっ……むにゃむにゃ」

fin

アトガキ

ツマラナイっ

 つまらない。詰まらないったら詰まらない!
 だって、妹子がいないし、竹中さんだって家族に会いに行くとか行って留守だし、馬子さんも相手してくれないし(当たり前だけど)、調子丸も具合悪いみたいだし……。揃いも揃って私の相手をしてくれない!
 しょうがない、と一言ですむことじゃないんだ。誰かが一緒に遊んでくれれば仕事も捗るし、其れにお楽しみっていうのも増えるのだ。

「あー、妹子ぉーーーーーっ」

 彼女の名前を叫んでしまうのは何故だろう。
 しかも、とっさに思い浮かぶのはいつも妹子である。
 最近、顔をあわせると不思議な、何だか居心地が悪い気持ちに陥るし……。
 ムシャクシャしたので、山盛りになっている書類をそこら辺にぶちまけてみた。別に、いい。此処に来るのは私と妹子と馬子さんくらいだ。この位の片づけなら、妹子に任してしまおう。だって、あいつは私の命令には逆らえない宿命にあるのだから。
 でも、ムシャクシャとか蟠りは消えない。如何したものか。
 自分でばら撒いた書類なのに、またしてもそれらを見てると憤りを感じてくる。あー、暴れてみたいとかなんて思ったりもしている。摂政だから少しの我儘も許してくれる……筈が無い。
 あー、早く誰か来てくれっ!
 そう神様に祈っているとき、扉が静かに開けられた。

「失礼しまー……」

 扉を開けた主とぱっちりと瞳があう。私の格好は大層おかしいもので、書類の上で跪いており、両手を組んでいるというなんとも滑稽な格好である。しかも、その主とやらは妹子。あ、やばいと思ったのも束の間、鋭い右ストレートが飛んできた。
 これまた妹子で、突っ込みもこの格好に対してではなく、部屋の汚さだった。

「なんで書類ぶちまけとんじゃこらぁああああああっ!」
「おひつっ!」

 今日も今日とて痛いし、怖いし、口が悪すぎる。
 嗚呼、口からまた鉄の味。
 苦くて苦くて、でも、暖かい。妹子の右ストレートなんか落ち着くし。
 はっ、若しかして私ってマゾ?


「すみません、太子。勢い余って右ストレートぶちかましちゃいました。でも、太子が悪いんですよ。こんなに書類ぶちまけて」

 久しぶりに見る、赤いノースリーブのジャージ。何時も仕事中は正装だというのに今日はどんな気変わりなのだろう。私はそればかり気になって仕方なかった。

「……話聞いてますか」
「あ、うん、聞いてる聞いてる」
「まあ、いいです。金輪際こんなことなければ」

 すまし顔をしているが、何だかんだいって片づけを手伝ってくれている。甘いんやらやさしいやら、分からないがまあ、助かる。

「あ、そうです。太子」
「なんだ芋」
「芋じゃないですってば! ……気を取り直して、お客さんが来てましたよ」
「え、美人さん?」

 眼を輝かせて聞くと、妹子は複雑そうな顔をして「ええ」と低くつぶやいた。そして、また無理やり笑みを浮かべると、書類にまた手を伸ばした。

「太子のこと、お気に入りらしいですよ。一目あいたいと仰られておりました」
「へー。で?」
「で? って……お会いにならないのですか?」
「ああ。だって、私にはちゃんと妹子がいるしっ」

 屈託ない笑顔を浮かべ(たつもり)、私はそのまま後ろから抱きついた。寂しそうな背中と下がっている肩を見ていると、なんとも抱きつきたい衝動に駆られたのだ。殴られるのは承知の上だ。しかし、私のせいで泣かせてしまったのなら償うしかない。
 殴られるかと思い身構えていると、彼女の右手は私の左手に触れた。

「有難うございます……」
「いも……」

 そのままキスをしようとした。すると、彼女は行き成り右アッパーを食らわせてきた。

「調子に乗るなっ! このアワビがあああああああああっ!」
「くぬぎいいいいいいいいいいいっ!」

 嗚呼、痛いけど、痛いけど、これが私の日常。
 「ツマラナイ」……よりは数十倍マシ。かな?


fin

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運命(仮)

「はあ……」
 僕は庭で悠々と遊んでいる女を見てため息をつく。これが長年憧れて恋心を抱いていた相手だなんて信じたくもない。自由奔放で能天気で鈍感でお莫迦で全く才能を感じられない。しかも、小さいくせに他のところは育ちまくりで。嗚呼、これがあの聖徳太子だなんて到底信じられない。
「おい、妹子っ。一緒に四葉のクローバー探すぞっ。って、おま、何逃げようとしとるんじゃいっ!」
 黙ってれば可愛い女子なのに……。恐らく、この人は自分を女だと自覚していない。僕の前でやたらと着替えるし、僕の家にも来たがるし、無闇に抱きついてきたりする。しかも、「可愛い」だといって。冠位五位の僕に対して、少し甘えすぎだと思う。太子は摂政という高い身分で、誰からも一目置かれていて。まあ、命を狙われやすい立場でもあるのだけれど。だけど、僕なんかじゃ手に届かないくらい、光り輝いている存在なのに、なんでこんなに僕に引っ付いてくるのかが不思議でしょうがない。僕はただ、太子に選ばれた使い捨ての「遣隋使」だというのに。

「四葉のクローバー見つけたら、一緒にカレー食べるぞ」
「……それ以上食べたら本当にカレーになっちゃいますよ」
「るさいっ! とりあえず、探すぞ探すぞっ」
 断りきれないのは、僕自身も彼女に甘いから。そして、太子だから。身分も高いし僕は部下だ。上司の命令には逆らってはいけないのだ。ま、多分、断っても無理矢理やらされるとは思うけど。
 必死に探すこと四時間経った。昼食で用意していたカレーがまたしても夕食になってしまう時刻に近づいていた。僕のお腹は本当に空腹で石でもなんでもいいから口に入れたい気分になった。其れ位、お腹は鳴るし本当に憂鬱な気分だった。腹の虫が十回鳴ろうとしたとき、行き成り太子が「あっ!」と大きな声を出した。

「妹子っ! 遂に私はみつけたぞっ! 幸せになれる四葉のクローバー」

 彼女は満面の笑みを浮かべながら、其れを差し出す。太子の両頬や掌には沢山の土がついていて、すぐにでも手拭で拭いたくなった。だが、ポケットに手をいれても何も入っていないので、手で頬を摩った。太子の顔が真っ赤に染まっていく。そして、僕はその手を頭にやって撫でた。
「よかったですね」
「うんっ! これで、私の願いも……」
「願い?」
「あ、なんでもない。とりあえず、カレー食らうぞー」
「ちょ、土足であがらんでくださいっ! 小汚いっ!」
「ぬは、毒小姑妹子」
「やめてください……このアワビ」

 僕達がこんなに親しい関係になったのは少しの経緯がある。



 酷く頭がくらくらする。嗚呼、そういえば僕は鼻血を出して倒れてしまったのだ。しかも、憧れの太子の目の前で。恐らく変な人と思われてしまっただろう。しかし、彼女がいけないのだ。行き成り、何の脈絡もなく抱きついてきたんだから。僕の額には濡れタオルが乗っていた。ふかふかの布団に寝ていたので飛び上がる。これが太子が毎日寝ている布団だとしたら……いかん、また鼻血が出てしまう。すると、隣には心配そうに顔を覗き込んでいただろう物体がある。その場に震えながら蹲っている。「痛い……」と呟きながら、少々涙も浮かべているのだろう。僕は恐る恐る肩をたたいた。

「あのぉ……」
「あ、お早う。妹子。ちょっと鼻をぶつけちゃって……。もう、私ったらドジっ娘」
 拳を頭につけ「テヘ」と可愛らしい声で呟く。少し古臭い気もするが、其処は気にしない方向でいく。多分、僕が飛び上がって起きてしまった為、僕の頭がぶつかってしまったのだろう。嗚呼なんて失態をしてしまったのだろう。なので、僕は頭を下げてゆっくり丁寧に謝った。

「申し訳ございません……」
「なんで妹子が謝るの?」
 あたふたしながら、彼女は訊く。「だって」といい、僕は言葉をつなげる。
「僕が飛び上がってしまって」
「あ、関係ないよ。妹子は。ただ、私がヘマをしてしまっただけだよ」
 優しく包み込むように言葉を放つ。その言葉一つ一つがとても温かくて心も体も癒されるようだ。そして、太子は子どものような無邪気な笑みを浮かべて蓮華を取り出した。勿論、青いジャージのポケットからからだ。

「じゃーんっ、それでは、妹子にお粥を食べさせたいと思います」
「ちょ、ちょっと待ってください。それはどこから……?」
 薄汚れているので少し不信感を感じる。というか、其処から出したもので物を口に運ぶのかと考えると、気持ちが悪くなっていく。太子は「気にしない」と暢気に言いながら、鍋の中にある粥を掬う。
「ちょ、待ってください。僕はもう大丈夫ですし、それにお腹も空いていません」
「え、でも看病っていったらお粥でしょ。ほらほら口あけて、あーん」
 そんな可愛い表情をされても口を開けない。嗚呼、僕にどうしろうと言うんだ。この変人は。蓮華が僕の唇にあたった、その瞬間、僕は太子を突き飛ばしていた。勿論、不可抗力で条件反射で突き飛ばしてしまった。悪気があってやったわけじゃ全くない。

「す、すみません太子」
「んもう! 痛いじゃないか。私の繊細な硝子の心は傷つけられたぞ」
「じゃあ、それで食べさせるのは止めてください。小汚いので」
「あ、毒小姑妹子が生まれた」
「なんですか、そのネーミングセンスのなさは」
「お、お前の方がないやいっ!」
 嗚呼、なんだか楽しいかもしれない。僕がツッコミで太子がボケ。たまに、本当に極たまに僕が少し殴ったり蹴ったりすれば、調和できるかもしれない。でも、太子は本当に大切だから、大切に大事にしなくてはならない。僕が笑みを浮かべていると、太子は僕の心を代弁するように話し始めた。
「あ、若しかして私達いいコンビかもしれない。そうだ。妹子の家に遊びにいっていい?」
 前言撤回。彼女は僕の心なんて微塵も分かっていなかったわけである。



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運命(仮)

貴女は言った。
私が殺されても、助けに行くって。
だから、私は殺されに行く。
それでもいいよね?
貴女は言った。

「愛してる」




「駄目だっ、駄目だっ、駄目だっ、だめだああああああああああああっ!」






 清清しい陽気に恵まれた今日は、聖徳太子と面会。この国のお姫様らしいが、人々の噂だとそんなに気品の溢れた人ではないようだ。人々と言うのは朝廷の方々なのだが。
 だが、僕が見た太子は可愛らしく気品の或る姫だったと思う。冷静で頭が良さそうで何でも出来る。そんな女性だったと思う。記憶違いかな、といつも思ったりもするが、極稀に僕と同意見の人もいる。だから、少しだけ一安心できる。
 そういえば、この国は危機に曝されているらしい。太子の暗殺とか色々絡んでいるだろうけど、詳細は誰でも教えてくれない。僕だってもうすぐ成人だと言うのにそんな扱いは酷いと思う。朝廷の人々はまだ僕のことを子供だと思っているのだろう。全く、と溜め息をつきながら正装に腕を通す。念のため、鞘を差しておく。僕だって一応は有名人だ。太子の次の次の……とりあえず、身の危険はある。だから、防具は必須なのである。
 伸びをし、遅刻をしないように一歩踏み出す。久しぶり、いや、初めての太子との対面。僕の心は疼き出していた。



 多分、僕と太子が対面したのは幼い頃だったと思う。彼女は鞠付きをしていた。両親も友達も何もいない僕は、一人で原っぱで昼寝をしていた。その時、顔面に小さな鞠が当たったような気がしていた。心配そうに覗いていたのは誰でもない、太子だったに違いない。

「だいじょーぶですか?」

 一瞬にして、僕は恋をした。こんなに美しい人がいるなんて、初めて知った。その頃は太子なんて偉大な存在知らなかった。



 僕は時折小躍りをしていた。なんとも滑稽なんだろうと自分でも罵りたくなったが、こんな嬉しいことはこれから先もないだろう。だから、今、嬉んでおくしかないのだ。すると、厳つい人が門前に立っているのが見える。大豪邸といった方がいいのだろうか。後ろには物凄い大きさの建物がある。渡り廊下を歩いたらすぐなんて、どうにかしてる。この建物は。
 近づいていくと、すっと厳つい人達は引いていく。うん、やっぱり僕にも権力はあるようだ。恐る恐る重い扉を開けると、其処には輝かしい世界が待っていた。
 其の世界は女性ばかりだった。周りを取り囲んでいるのも、綺麗な服を着た綺麗な女性。そして、中央に座っているのが……青いジャージを着た聖徳太子?大きな瞳と長い睫毛、小さな唇に背中まで伸びた髪は噂通りの彼女だ。挙動不審に目をぱちくりさせている僕を見かねてか、周りの女史は一旦引けていった。僕と太子、二人だけになる。しかし、喉が渇いてか僕の口からは言葉が出ない。すると、先程まで無口で僕を睨みつけていた太子がいきなり声を出したのだ。

「あーーーーーーーーーっ! 小さい時、会った事あるよーな気がするぅっ」
「えとー……」
「まず、挨拶でしょ」
「あ、はい。初めまして。使者として選ばれました。小野妹子です」
「うんうん」
 頷きながら笑みを浮かべる。彼女はとても可愛らしい。
「どうぞ宜しくお願いします」
「此方こそ、お願いします。妹子」

 小鳥のようなすがすがしい声。屈託の無い笑顔。やっぱり、この人は変わっていないのだ。お気楽になろうとも何になろうとも、聖徳太子は聖徳太子であり、僕の憧れの人なのだ。次第に顔が綻んでいくのが判る。すると、いきなり太子が大声を出した。
「もう、妹子かわゆいーっ!」
 と言いながら立ち上がり、僕に擦り寄ってきたのだ。当然、僕の頭は空っぽになった。嬉しさ半分、驚き半分で僕の思考回路は異常を来した。そして、目の前が真っ暗になった。しかも、格好悪い……鼻血を出しながら。



「ねえ、鬼男くん」

 書類を前に頬杖をつきながら男は青年に問いかける。その声は一度聞くとやさしく聴こえるが、鬼男と呼ばれた青年にはとても恐ろしく聴こえた。いつもとは違う声色に鬼男は驚いたが、直ぐにしゃんと背中を伸ばして「何ですか?」と尋ねた。男は唸りながら考え込んでいた。暫しの沈黙が流れる。

「いや、特にこれってことでもないんだけど……」
 鬼男は突っ込みをいれようと構えたが、また男は声色を変えて、しかも似合わずの笑みで言った。

「多分、私たちの想像を超えるようなシナリオが出来上がるかもしれない」
「だいお……?」
「いや、何でもない。うし、今日もゴメスのところに行ってからかってこよーっと」

 閻魔大王、其れが彼の名前だった。

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