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冷静素直(クーデレ)彼女の苦手なもの
彼女はいつも澄ましている。って、多分、彼女はすましてるとかは意識して無いだろうとは思うけど、僕から見ればとてもクールな女だ。けれど、素直でいつも「好き」とか言ってくれる。其処は嬉しいことだ。
でも、弱点や苦手物がない。お化けも平気だし虫だって普通に触ってるし、雷や自然災害だって微動だにしない。女の子特有の「きゃあっ」っていう金切り声も聞いたことがない。いつも低く恐ろしい声をしている。勿論、彼女はそんな気、更々ないのだ。自分が低い声だとか、女らしくないとか。
今日はそんな彼女の家にお邪魔している。僕達は高校生だが、同棲とかも考えていたりする。勿論、結婚を前提にお付き合いをさせてもらっている。まだ早いとか世間は言うけれど気にしない。だって、あと一年したら立派な大学生にあがれるのだから。そんな楽しい生活を思い浮かべていると、キッチンに立っていた彼女が訊ねてきた。
「今日は何時に帰る?」
じゅーじゅー、という揚げ物を揚げている音が耳に届いてくる。微かで消え入りそうな声で少ししか聞こえなかったが、僕は届くように言った。
「あー、九時くらいかな」
ソファにあったクッションを思わず抱きかかえて反応を伺った。突っ込まれるかぶん殴られるかのどっちかだと思う。それか説教を食らうか。どれにしても光景が目に浮かぶ。多分、僕はマゾヒストで殴られるのが快感になってきているのだろう。彼女が隠れサディストだから仕方の無いことなんだろうけど。
しかし、返ってきた答えは意外なものだった。
「ああ。判った。じゃあ、あと三時間もいられるな」
ひょっこと見せた笑顔。不意すぎて思わず鼻血が出てしまうそうになった。とても反則的だ。なんだ、その屈託の無い無邪気な笑顔は。今まで見せたことがなくて、僕は腰を抜かしそうにもなった。今すぐ抱きしめてやりたい。
「きゃあああああああ」
行き成り、叫び声が轟く。隣の人かと思ったが、それは違う。だって、彼女の声で「幸成ーっ」と呼ばれたからだ。僕は呆然としていたがすぐにスイッチは入った。すぐにキッチンへ出向く。すると、其処には蠢く黒色の物体。
「ごごごごごきぶりっ」
彼女は泣きそうな顔で此方を見る。僕はすぐにスリッパを脱ぎ、しとめに行った。僕だってゴキブリは苦手だし潰すのだって抵抗がある。でも、愛しい彼女を泣かす奴は絶対に許せない。靴下で踏み潰してやっても充分なほどなのである。ぐちゃり、厭な感触と音がする。スリッパをどかすと、潰れている黒色の物体。ティッシュで即座に拭き取り、ティーシャツの裾で掻いていないのに額を拭う。それが「ホラ、終わったよ」のサインだ。
「ああ、有難う」
あれ、何かまた期待と違う反応。いつものキリリとした表情に戻ってしまった。先程までは目を潤ませて一つに結わえていた灰色の長い髪を少し揺り動かしていたと言うのに。今はもう平常心になってしまっている。
「え、それだけ?」
「うん。それだけ。他に言うことはないだろう」
「……。そうですね」
包丁を持ち始めた彼女にはもう何もいえない。ただ、ゴキブリが苦手っていうことだけは心に留めておこう。他の誰かに行ったら、恐らく僕の命はないような気がする。
「幸成、スリッパ洗っておいてくれ。ゴ……臭と幸成臭がごっちゃになってしまう」
「えっ! 俺の存在価値はゴキと同等ですかあっ」
「勿論だ。ホラ、早く食え。焼肉なんて一年に一度しか出さないぞ」
「……はい」
少しだけ、冷静素直(クーデレ)彼女が笑ってくれた。そんな気がした。
fin
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不思議な双子の世界
よく似ている。この二人を見ているといつもそう思う。同じ顔立ち、同じ体系、同じ声など指折り数え切れないほどの多さ。しかも、私の目の前で媚びている二人はまるで同じ。今は彼等と遊んでいる途中だ。私は幼稚園の先生という立場で、彼等は生徒と言う立場。高鬼、という極普通の遊戯だ。いつも、私が鬼になると此方へ来て縋ってくる。その姿が可愛くて思わずその小さな腕に触ってしまう。本当にむちむちしていて、赤ちゃんのようだ。私は思わずぽけーっとしてしまった。
「「ねえ、先生早くしてよ」」
二人の合わさったハーモニーに私は正気を取り戻し、無理矢理笑顔を作り「はい」とタッチをした。勿論、どちらをタッチしたのかは分からない。ズボンに名前が書いてあるのだが、此処からでは名札でさえ見えない。恐らく弟の方だと思う。名前は、草壁翔也と草壁雅也。名前でさえ瓜二つである。
「うわー、翔也かよーっ。いっつも翔也だよな、先生って」
雅也君が口を尖がらせつんとした顔で私を横目でちらりと見る。その横顔はとても可愛らしかった。けど、本当にわざとではないのである。いつも右にいるのが翔也君で……って裏を返せばわざとなのかもしれない。その法則を知っているから。
「ま、いいじゃん。早く十数えるから、雅也と先生逃げてよ」
有無を聞かず、翔也君は「いーち、にー」と数え始めた。他にももっと園児は沢山要るが、此処の砂場にいるのは私達だ。早く逃げなくてはと思い、私は咄嗟に雅也君の手を引き、遠くの草葉へと駆けていった。
「此処なら大丈夫……」
「みんな此処にあんまり来ないからね」
雅也君が荒ぶる息を整えようと、深呼吸をしている。「きゃーきゃー」と騒ぐ園児達の声に耳を済ませながら、胸に手を当てて目を瞑っている雅也君を見つめる。すると、気づかれたようで「なあに」と聞かれた。私は日々思っていることを訊ねた。
「双子って変な感覚しない?」
「カンカク?」
「あの、なんか自分と一緒の顔の人が隣にいるとかさ」
「別に。翔也と僕は全然違うもん。だから、なんとも思わない。きっと翔也だってそうだよ。僕達は全然違う」
砂を弄りながら自分なりの言葉で真面目に言う。この子は本当に成長したと心底思う。初めて会った時は口さえ利いてくれなかったのだから。翔也君はすぐに打ち解けてくれたけど、引っ込み思案の雅也君は多分、私のことを認めてくれていなかった。けど、今はこうして本心を言ってくれる。とても幸せだと思う。
でも、本当に不思議で仕方が無い。ま、別にそれでもいいか。
「先生たっちぃー」
能天気な翔也君の声がする。後ろを振り向くと、げらげらと笑っている翔也君。隣にはにんまりと怪しい笑みを浮かべている雅也君。やはり、あくどい作戦だったのか。
「ちょ、卑怯だよっ」
子ども染みているのは私の個性でもあり、短所でもある。
「卑怯って言葉、知りませーん。ホラ、早く十数えてよ」
今度は雅也君。翔也君は笑いすぎて声も出ないようである。こしょこしょをしてやりたくなったが、此処はぐっと抑えて「いーち」と数えだす。すると、今度は擦り寄ってこないで逃げ出した。二人して、仲良く手をつないで。
「じゅーうっ」
近くの子を捕まえようと思った。双子はどうせ、二人仲良く遠い砂場で遊んでいるのだから。
fin
「「ねえ、先生早くしてよ」」
二人の合わさったハーモニーに私は正気を取り戻し、無理矢理笑顔を作り「はい」とタッチをした。勿論、どちらをタッチしたのかは分からない。ズボンに名前が書いてあるのだが、此処からでは名札でさえ見えない。恐らく弟の方だと思う。名前は、草壁翔也と草壁雅也。名前でさえ瓜二つである。
「うわー、翔也かよーっ。いっつも翔也だよな、先生って」
雅也君が口を尖がらせつんとした顔で私を横目でちらりと見る。その横顔はとても可愛らしかった。けど、本当にわざとではないのである。いつも右にいるのが翔也君で……って裏を返せばわざとなのかもしれない。その法則を知っているから。
「ま、いいじゃん。早く十数えるから、雅也と先生逃げてよ」
有無を聞かず、翔也君は「いーち、にー」と数え始めた。他にももっと園児は沢山要るが、此処の砂場にいるのは私達だ。早く逃げなくてはと思い、私は咄嗟に雅也君の手を引き、遠くの草葉へと駆けていった。
「此処なら大丈夫……」
「みんな此処にあんまり来ないからね」
雅也君が荒ぶる息を整えようと、深呼吸をしている。「きゃーきゃー」と騒ぐ園児達の声に耳を済ませながら、胸に手を当てて目を瞑っている雅也君を見つめる。すると、気づかれたようで「なあに」と聞かれた。私は日々思っていることを訊ねた。
「双子って変な感覚しない?」
「カンカク?」
「あの、なんか自分と一緒の顔の人が隣にいるとかさ」
「別に。翔也と僕は全然違うもん。だから、なんとも思わない。きっと翔也だってそうだよ。僕達は全然違う」
砂を弄りながら自分なりの言葉で真面目に言う。この子は本当に成長したと心底思う。初めて会った時は口さえ利いてくれなかったのだから。翔也君はすぐに打ち解けてくれたけど、引っ込み思案の雅也君は多分、私のことを認めてくれていなかった。けど、今はこうして本心を言ってくれる。とても幸せだと思う。
でも、本当に不思議で仕方が無い。ま、別にそれでもいいか。
「先生たっちぃー」
能天気な翔也君の声がする。後ろを振り向くと、げらげらと笑っている翔也君。隣にはにんまりと怪しい笑みを浮かべている雅也君。やはり、あくどい作戦だったのか。
「ちょ、卑怯だよっ」
子ども染みているのは私の個性でもあり、短所でもある。
「卑怯って言葉、知りませーん。ホラ、早く十数えてよ」
今度は雅也君。翔也君は笑いすぎて声も出ないようである。こしょこしょをしてやりたくなったが、此処はぐっと抑えて「いーち」と数えだす。すると、今度は擦り寄ってこないで逃げ出した。二人して、仲良く手をつないで。
「じゅーうっ」
近くの子を捕まえようと思った。双子はどうせ、二人仲良く遠い砂場で遊んでいるのだから。
fin
運命(仮)
「はあ……」
僕は庭で悠々と遊んでいる女を見てため息をつく。これが長年憧れて恋心を抱いていた相手だなんて信じたくもない。自由奔放で能天気で鈍感でお莫迦で全く才能を感じられない。しかも、小さいくせに他のところは育ちまくりで。嗚呼、これがあの聖徳太子だなんて到底信じられない。
「おい、妹子っ。一緒に四葉のクローバー探すぞっ。って、おま、何逃げようとしとるんじゃいっ!」
黙ってれば可愛い女子なのに……。恐らく、この人は自分を女だと自覚していない。僕の前でやたらと着替えるし、僕の家にも来たがるし、無闇に抱きついてきたりする。しかも、「可愛い」だといって。冠位五位の僕に対して、少し甘えすぎだと思う。太子は摂政という高い身分で、誰からも一目置かれていて。まあ、命を狙われやすい立場でもあるのだけれど。だけど、僕なんかじゃ手に届かないくらい、光り輝いている存在なのに、なんでこんなに僕に引っ付いてくるのかが不思議でしょうがない。僕はただ、太子に選ばれた使い捨ての「遣隋使」だというのに。
「四葉のクローバー見つけたら、一緒にカレー食べるぞ」
「……それ以上食べたら本当にカレーになっちゃいますよ」
「るさいっ! とりあえず、探すぞ探すぞっ」
断りきれないのは、僕自身も彼女に甘いから。そして、太子だから。身分も高いし僕は部下だ。上司の命令には逆らってはいけないのだ。ま、多分、断っても無理矢理やらされるとは思うけど。
必死に探すこと四時間経った。昼食で用意していたカレーがまたしても夕食になってしまう時刻に近づいていた。僕のお腹は本当に空腹で石でもなんでもいいから口に入れたい気分になった。其れ位、お腹は鳴るし本当に憂鬱な気分だった。腹の虫が十回鳴ろうとしたとき、行き成り太子が「あっ!」と大きな声を出した。
「妹子っ! 遂に私はみつけたぞっ! 幸せになれる四葉のクローバー」
彼女は満面の笑みを浮かべながら、其れを差し出す。太子の両頬や掌には沢山の土がついていて、すぐにでも手拭で拭いたくなった。だが、ポケットに手をいれても何も入っていないので、手で頬を摩った。太子の顔が真っ赤に染まっていく。そして、僕はその手を頭にやって撫でた。
「よかったですね」
「うんっ! これで、私の願いも……」
「願い?」
「あ、なんでもない。とりあえず、カレー食らうぞー」
「ちょ、土足であがらんでくださいっ! 小汚いっ!」
「ぬは、毒小姑妹子」
「やめてください……このアワビ」
僕達がこんなに親しい関係になったのは少しの経緯がある。
.
酷く頭がくらくらする。嗚呼、そういえば僕は鼻血を出して倒れてしまったのだ。しかも、憧れの太子の目の前で。恐らく変な人と思われてしまっただろう。しかし、彼女がいけないのだ。行き成り、何の脈絡もなく抱きついてきたんだから。僕の額には濡れタオルが乗っていた。ふかふかの布団に寝ていたので飛び上がる。これが太子が毎日寝ている布団だとしたら……いかん、また鼻血が出てしまう。すると、隣には心配そうに顔を覗き込んでいただろう物体がある。その場に震えながら蹲っている。「痛い……」と呟きながら、少々涙も浮かべているのだろう。僕は恐る恐る肩をたたいた。
「あのぉ……」
「あ、お早う。妹子。ちょっと鼻をぶつけちゃって……。もう、私ったらドジっ娘」
拳を頭につけ「テヘ」と可愛らしい声で呟く。少し古臭い気もするが、其処は気にしない方向でいく。多分、僕が飛び上がって起きてしまった為、僕の頭がぶつかってしまったのだろう。嗚呼なんて失態をしてしまったのだろう。なので、僕は頭を下げてゆっくり丁寧に謝った。
「申し訳ございません……」
「なんで妹子が謝るの?」
あたふたしながら、彼女は訊く。「だって」といい、僕は言葉をつなげる。
「僕が飛び上がってしまって」
「あ、関係ないよ。妹子は。ただ、私がヘマをしてしまっただけだよ」
優しく包み込むように言葉を放つ。その言葉一つ一つがとても温かくて心も体も癒されるようだ。そして、太子は子どものような無邪気な笑みを浮かべて蓮華を取り出した。勿論、青いジャージのポケットからからだ。
「じゃーんっ、それでは、妹子にお粥を食べさせたいと思います」
「ちょ、ちょっと待ってください。それはどこから……?」
薄汚れているので少し不信感を感じる。というか、其処から出したもので物を口に運ぶのかと考えると、気持ちが悪くなっていく。太子は「気にしない」と暢気に言いながら、鍋の中にある粥を掬う。
「ちょ、待ってください。僕はもう大丈夫ですし、それにお腹も空いていません」
「え、でも看病っていったらお粥でしょ。ほらほら口あけて、あーん」
そんな可愛い表情をされても口を開けない。嗚呼、僕にどうしろうと言うんだ。この変人は。蓮華が僕の唇にあたった、その瞬間、僕は太子を突き飛ばしていた。勿論、不可抗力で条件反射で突き飛ばしてしまった。悪気があってやったわけじゃ全くない。
「す、すみません太子」
「んもう! 痛いじゃないか。私の繊細な硝子の心は傷つけられたぞ」
「じゃあ、それで食べさせるのは止めてください。小汚いので」
「あ、毒小姑妹子が生まれた」
「なんですか、そのネーミングセンスのなさは」
「お、お前の方がないやいっ!」
嗚呼、なんだか楽しいかもしれない。僕がツッコミで太子がボケ。たまに、本当に極たまに僕が少し殴ったり蹴ったりすれば、調和できるかもしれない。でも、太子は本当に大切だから、大切に大事にしなくてはならない。僕が笑みを浮かべていると、太子は僕の心を代弁するように話し始めた。
「あ、若しかして私達いいコンビかもしれない。そうだ。妹子の家に遊びにいっていい?」
前言撤回。彼女は僕の心なんて微塵も分かっていなかったわけである。
.
next
僕は庭で悠々と遊んでいる女を見てため息をつく。これが長年憧れて恋心を抱いていた相手だなんて信じたくもない。自由奔放で能天気で鈍感でお莫迦で全く才能を感じられない。しかも、小さいくせに他のところは育ちまくりで。嗚呼、これがあの聖徳太子だなんて到底信じられない。
「おい、妹子っ。一緒に四葉のクローバー探すぞっ。って、おま、何逃げようとしとるんじゃいっ!」
黙ってれば可愛い女子なのに……。恐らく、この人は自分を女だと自覚していない。僕の前でやたらと着替えるし、僕の家にも来たがるし、無闇に抱きついてきたりする。しかも、「可愛い」だといって。冠位五位の僕に対して、少し甘えすぎだと思う。太子は摂政という高い身分で、誰からも一目置かれていて。まあ、命を狙われやすい立場でもあるのだけれど。だけど、僕なんかじゃ手に届かないくらい、光り輝いている存在なのに、なんでこんなに僕に引っ付いてくるのかが不思議でしょうがない。僕はただ、太子に選ばれた使い捨ての「遣隋使」だというのに。
「四葉のクローバー見つけたら、一緒にカレー食べるぞ」
「……それ以上食べたら本当にカレーになっちゃいますよ」
「るさいっ! とりあえず、探すぞ探すぞっ」
断りきれないのは、僕自身も彼女に甘いから。そして、太子だから。身分も高いし僕は部下だ。上司の命令には逆らってはいけないのだ。ま、多分、断っても無理矢理やらされるとは思うけど。
必死に探すこと四時間経った。昼食で用意していたカレーがまたしても夕食になってしまう時刻に近づいていた。僕のお腹は本当に空腹で石でもなんでもいいから口に入れたい気分になった。其れ位、お腹は鳴るし本当に憂鬱な気分だった。腹の虫が十回鳴ろうとしたとき、行き成り太子が「あっ!」と大きな声を出した。
「妹子っ! 遂に私はみつけたぞっ! 幸せになれる四葉のクローバー」
彼女は満面の笑みを浮かべながら、其れを差し出す。太子の両頬や掌には沢山の土がついていて、すぐにでも手拭で拭いたくなった。だが、ポケットに手をいれても何も入っていないので、手で頬を摩った。太子の顔が真っ赤に染まっていく。そして、僕はその手を頭にやって撫でた。
「よかったですね」
「うんっ! これで、私の願いも……」
「願い?」
「あ、なんでもない。とりあえず、カレー食らうぞー」
「ちょ、土足であがらんでくださいっ! 小汚いっ!」
「ぬは、毒小姑妹子」
「やめてください……このアワビ」
僕達がこんなに親しい関係になったのは少しの経緯がある。
.
酷く頭がくらくらする。嗚呼、そういえば僕は鼻血を出して倒れてしまったのだ。しかも、憧れの太子の目の前で。恐らく変な人と思われてしまっただろう。しかし、彼女がいけないのだ。行き成り、何の脈絡もなく抱きついてきたんだから。僕の額には濡れタオルが乗っていた。ふかふかの布団に寝ていたので飛び上がる。これが太子が毎日寝ている布団だとしたら……いかん、また鼻血が出てしまう。すると、隣には心配そうに顔を覗き込んでいただろう物体がある。その場に震えながら蹲っている。「痛い……」と呟きながら、少々涙も浮かべているのだろう。僕は恐る恐る肩をたたいた。
「あのぉ……」
「あ、お早う。妹子。ちょっと鼻をぶつけちゃって……。もう、私ったらドジっ娘」
拳を頭につけ「テヘ」と可愛らしい声で呟く。少し古臭い気もするが、其処は気にしない方向でいく。多分、僕が飛び上がって起きてしまった為、僕の頭がぶつかってしまったのだろう。嗚呼なんて失態をしてしまったのだろう。なので、僕は頭を下げてゆっくり丁寧に謝った。
「申し訳ございません……」
「なんで妹子が謝るの?」
あたふたしながら、彼女は訊く。「だって」といい、僕は言葉をつなげる。
「僕が飛び上がってしまって」
「あ、関係ないよ。妹子は。ただ、私がヘマをしてしまっただけだよ」
優しく包み込むように言葉を放つ。その言葉一つ一つがとても温かくて心も体も癒されるようだ。そして、太子は子どものような無邪気な笑みを浮かべて蓮華を取り出した。勿論、青いジャージのポケットからからだ。
「じゃーんっ、それでは、妹子にお粥を食べさせたいと思います」
「ちょ、ちょっと待ってください。それはどこから……?」
薄汚れているので少し不信感を感じる。というか、其処から出したもので物を口に運ぶのかと考えると、気持ちが悪くなっていく。太子は「気にしない」と暢気に言いながら、鍋の中にある粥を掬う。
「ちょ、待ってください。僕はもう大丈夫ですし、それにお腹も空いていません」
「え、でも看病っていったらお粥でしょ。ほらほら口あけて、あーん」
そんな可愛い表情をされても口を開けない。嗚呼、僕にどうしろうと言うんだ。この変人は。蓮華が僕の唇にあたった、その瞬間、僕は太子を突き飛ばしていた。勿論、不可抗力で条件反射で突き飛ばしてしまった。悪気があってやったわけじゃ全くない。
「す、すみません太子」
「んもう! 痛いじゃないか。私の繊細な硝子の心は傷つけられたぞ」
「じゃあ、それで食べさせるのは止めてください。小汚いので」
「あ、毒小姑妹子が生まれた」
「なんですか、そのネーミングセンスのなさは」
「お、お前の方がないやいっ!」
嗚呼、なんだか楽しいかもしれない。僕がツッコミで太子がボケ。たまに、本当に極たまに僕が少し殴ったり蹴ったりすれば、調和できるかもしれない。でも、太子は本当に大切だから、大切に大事にしなくてはならない。僕が笑みを浮かべていると、太子は僕の心を代弁するように話し始めた。
「あ、若しかして私達いいコンビかもしれない。そうだ。妹子の家に遊びにいっていい?」
前言撤回。彼女は僕の心なんて微塵も分かっていなかったわけである。
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思い出話をひとつ
微風が赤髪の青年、ゼロス・ワイルダーを包み込む。彼は端正な顔立ちをしつつも喋ると滑稽な人格に変わり、仲間からは「喋ると三枚目」という不名誉な称号をつけられている。そんな女好きな彼はただ一人の女に、ただいま恋をしている。その女性は今、目の前で仲良く遊んでいるのだ。ゼロスに見せたことのない満面の笑みを浮かべながら、金髪の少女、コレット・ブルーネルとロイド・アーヴィングという茶髪の赤い服に身を纏った二人と遊んでいる。
その、ゼロスが好きなお相手は藤林しいな。スタイルも良く顔立ちもゼロスほどではないが整っている。まず街中で可愛いか綺麗かと聞いたら、綺麗と答える人が多いだろう。そんな彼女に、ゼロスはずっと恋をしていた。
彼は大きい溜め息をつきながら赤く長ったらしい髪を艶やかに掻き分け、退屈そうに呟いた。
「俺様だって、つまらなくはねーのに」
彼の呟きは微風によって飲み込まれた。彼は木に寄りかかり、そのまましゃがんだ。そして、静かに瞳を閉じると直ぐに夢の中へ落ちてしまった。
草原が広がっている。辺りには数々の木々が聳え立っており、幼いゼロスは幼いしいなに手をとられて共に走っている。しいなは今のような胸元が強調される色っぽい着物ではなく、忍者が着るような黒い服に身を包んでいた。ゼロスはというと、その長ったらしい髪を三つ網にしており、貴族の中の貴族といった感じの服を着ている。
その姿は二人とも今とは対照的だ。ゼロスは意気を荒げながら、まだまだ余裕の表情をしているくのいちのしいなに語りかける。
「な、なあしいな。俺達は何処に向かってるんだよ。もう教えてくれても……」
「まだだめ!」
しどろもどろな感じで言ったゼロスの言葉を容易く跳ね除ける。ゼロスの口調は今とは全く違う真面目そうで爽やかな少年の口振りだった。多分、女とか男とか、この頃の彼には関係ないだろう。
先程まで笑顔だったしいなの顔も段々と坂や段差が険しくなってきて歪んでいる。ゼロスは今にも気絶しそうな勢いだったが、それよりもしいなの腕力には敵わない。彼としては気絶をして、こんな危険な山道を今すぐにでも抜け出したかった。しかし、彼女の必死の形相を見ていると、ゼロスは今やめても仕方ないことを察し同じように彼女の手首を掴んだ。
やっとのことで山頂に着いた。が、ゼロスはもうヘロヘロでこれ以上は無理といった感じだった。しかし、しいなは清清しい笑みで此方を向いている。あちらこちらに汗を掻きながらも。
ゼロスは笑われたのかと思い、顔を真っ赤にさせ興奮気味に叫んだ。
「な、何だよ。そんなに俺の顔が変だっていうのか」
頬をぷっくりと膨らませながら口を尖がらせ、駄々っ子の幼稚園児のような口振りで言い放った。しいなは先程以上に笑い始め、挙句の果てにはお腹まで抱えだした。
ゼロスの心は怒りしかない。彼女に怒鳴り散らそう、そう思ったときゼロスの瞳には美しい夕陽があった。
「ハッピーバースデー。ゼロス・ワイルダーっ。そして、これからもよろしくね。立派な十四歳」
ゼロスは夕陽をバックに笑う彼女が単純に可愛いと思った。思わず抱きしめてしまうところだったが、理性を保ち「有難う」と呟いた。しかし、その呟きは耳に入らなかったらしく「何々?」と必要以上に聞いてくる。
彼は鬱陶しいと思ったのか、はたまたまたもや可愛いと思って理性が抑えきれなくなったのかは不明だがいきなり彼女へ駆け寄り頬にキスをした。
「うっせーんだよ。ったく、大事な俺の誕生日壊しやがって、この餓鬼が」
「なっ、なんだよロリコンっ。ゼロスの方があたしの誕生日壊しまくりじゃないかっ」
二人の痴話喧嘩が山道に響き渡る。
ゼロスはこのとき、気づいた。自分はしいなのことを愛している、と。
瞳に涙を浮かべながらゼロスは太陽の眩しさに瞳を瞑った。もう一度瞳を開けると、其処にはコレットが心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫? 悪い夢でも見たの?」
ゼロスは涙を拭きながら微笑を浮かべる。そして、絹糸のような彼女の金髪を手に取り、その髪に口付けをした。
「何でもないよ」
それならよかった、という風にコレットは微笑んだ。そして、もう一度立ち上がり、ロイド達の方に行こうと走った途端、彼女は転んだ。しかし、苦笑いをしながらも立ち上がり、必死に彼等の元に向かっている。
しいなをちらりと見るとじっと彼の方を見ていた。ので、厭らしく笑いかけると不意に顔をそらされてしまう。
「ぬは、俺様ショックー」
――でも、誰よりも好きなんだよな。
fin
その、ゼロスが好きなお相手は藤林しいな。スタイルも良く顔立ちもゼロスほどではないが整っている。まず街中で可愛いか綺麗かと聞いたら、綺麗と答える人が多いだろう。そんな彼女に、ゼロスはずっと恋をしていた。
彼は大きい溜め息をつきながら赤く長ったらしい髪を艶やかに掻き分け、退屈そうに呟いた。
「俺様だって、つまらなくはねーのに」
彼の呟きは微風によって飲み込まれた。彼は木に寄りかかり、そのまましゃがんだ。そして、静かに瞳を閉じると直ぐに夢の中へ落ちてしまった。
草原が広がっている。辺りには数々の木々が聳え立っており、幼いゼロスは幼いしいなに手をとられて共に走っている。しいなは今のような胸元が強調される色っぽい着物ではなく、忍者が着るような黒い服に身を包んでいた。ゼロスはというと、その長ったらしい髪を三つ網にしており、貴族の中の貴族といった感じの服を着ている。
その姿は二人とも今とは対照的だ。ゼロスは意気を荒げながら、まだまだ余裕の表情をしているくのいちのしいなに語りかける。
「な、なあしいな。俺達は何処に向かってるんだよ。もう教えてくれても……」
「まだだめ!」
しどろもどろな感じで言ったゼロスの言葉を容易く跳ね除ける。ゼロスの口調は今とは全く違う真面目そうで爽やかな少年の口振りだった。多分、女とか男とか、この頃の彼には関係ないだろう。
先程まで笑顔だったしいなの顔も段々と坂や段差が険しくなってきて歪んでいる。ゼロスは今にも気絶しそうな勢いだったが、それよりもしいなの腕力には敵わない。彼としては気絶をして、こんな危険な山道を今すぐにでも抜け出したかった。しかし、彼女の必死の形相を見ていると、ゼロスは今やめても仕方ないことを察し同じように彼女の手首を掴んだ。
やっとのことで山頂に着いた。が、ゼロスはもうヘロヘロでこれ以上は無理といった感じだった。しかし、しいなは清清しい笑みで此方を向いている。あちらこちらに汗を掻きながらも。
ゼロスは笑われたのかと思い、顔を真っ赤にさせ興奮気味に叫んだ。
「な、何だよ。そんなに俺の顔が変だっていうのか」
頬をぷっくりと膨らませながら口を尖がらせ、駄々っ子の幼稚園児のような口振りで言い放った。しいなは先程以上に笑い始め、挙句の果てにはお腹まで抱えだした。
ゼロスの心は怒りしかない。彼女に怒鳴り散らそう、そう思ったときゼロスの瞳には美しい夕陽があった。
「ハッピーバースデー。ゼロス・ワイルダーっ。そして、これからもよろしくね。立派な十四歳」
ゼロスは夕陽をバックに笑う彼女が単純に可愛いと思った。思わず抱きしめてしまうところだったが、理性を保ち「有難う」と呟いた。しかし、その呟きは耳に入らなかったらしく「何々?」と必要以上に聞いてくる。
彼は鬱陶しいと思ったのか、はたまたまたもや可愛いと思って理性が抑えきれなくなったのかは不明だがいきなり彼女へ駆け寄り頬にキスをした。
「うっせーんだよ。ったく、大事な俺の誕生日壊しやがって、この餓鬼が」
「なっ、なんだよロリコンっ。ゼロスの方があたしの誕生日壊しまくりじゃないかっ」
二人の痴話喧嘩が山道に響き渡る。
ゼロスはこのとき、気づいた。自分はしいなのことを愛している、と。
瞳に涙を浮かべながらゼロスは太陽の眩しさに瞳を瞑った。もう一度瞳を開けると、其処にはコレットが心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫? 悪い夢でも見たの?」
ゼロスは涙を拭きながら微笑を浮かべる。そして、絹糸のような彼女の金髪を手に取り、その髪に口付けをした。
「何でもないよ」
それならよかった、という風にコレットは微笑んだ。そして、もう一度立ち上がり、ロイド達の方に行こうと走った途端、彼女は転んだ。しかし、苦笑いをしながらも立ち上がり、必死に彼等の元に向かっている。
しいなをちらりと見るとじっと彼の方を見ていた。ので、厭らしく笑いかけると不意に顔をそらされてしまう。
「ぬは、俺様ショックー」
――でも、誰よりも好きなんだよな。
fin
キライよキライきらい嫌いキライ
「あんたなんてだいっきらいなんだからねっ!」
彼女の怒声が鳴り響く。嗚呼、煩いったらありゃしない。僕は最初から愛なんて求めていなかった。愛して、なんて一言も言ってないし、愛してる、なんてことも一言も言っていない。すべては彼女の勘違いから始まったんだ。それなのに、どうして彼女はこんなにも髪を逆立て怒り狂っているのだろうか。謎だ。
だから、僕は「なんで?」と訊ねた。すると、彼女はまた金切り声をあげて怒り狂う。
「うるさいうるさいうるさいっ! あんたなんか大嫌い!」
嗚呼、まるで君は壊れた人形のようだ。醜く儚く、そして脆い。すぐに涙を浮かべる。すぐにそのツインテールの金色の髪を揺さぶる。嗚呼、まるで惨めだ。僕は久しぶりに彼女の爛れた肌に触ろうとした。すると、彼女はぴしゃりとその手を叩き払った。
「さわらないでさわらないでさわらないで……」
まただ。また、こうして僕を拒絶する。勝手に愛していたのは君のほうなのに。僕は愛して、など、いない、のに。
嗚呼、こんなに涙が毀れるのはどうしてだろう。何かをいおうにも口が動かない。君の肌はどんどん爛れていく。嗚呼、とても醜い。あの可愛らしい顔はどこにいってしまったのだろう。大きな瞳に可愛らしい口と鼻。嗚呼、今すぐにでも取り替えたいよ。
「キライよキライきらい嫌いキライ」
「あんたなんてだいっきらい」
「もう近くに寄ってこないで」
「静かに壊してよ」
「もう、あたしを……」
君は君は、僕の可愛い人形。
たぶん、愛していたのは僕だった。
だから、今はこうして抱きしめているのだと思う。
例え爛れていたとしても君は僕のものだから。
勝手に嫌われても、僕が勝手に愛してあげる。
「すき、」
嗚呼、どうしても嫌がるようなのならば、この手でいつか葬り去ってやろう。
君の肌はひどく爛れている。だからなんだというのだろう。
ホラ、皮をひとつ剥くと新しい肌が。それと同時に君の金切り声。だけど、可愛くなってるよ。ほらほらほら……。
「もうすぐで、元に戻るよ」
そしたら、また、屈託の無い笑みを浮かべて遊ぼうね。
fin