忍者ブログ

雲行き怪しい午後の日に

二次創作main…日和、VOCALOID率高め   稀に掌アリ
02 2025/03 12 3 4 5 6 7 89 10 11 12 13 14 1516 17 18 19 20 21 2223 24 25 26 27 28 2930 31 04

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 03/16/04:52

ファンタジックな夢を見よう


 どん、と落ちる。その前の記憶は一切無い。ただ、私は暗い洞穴に落とされていた。軽くお尻が痛いがそんなこと知らない。
 それよりも、なんで此処にいるのかを考える方が先決なので、推理をしてみる。どうヘマをしたらこんな光も無いところへ落ちてしまうのか。というか、何で落ちたときの記憶がないのか。それがなければ推理など出来るはずが無い。途方に暮れた。
 そこら辺にどてっと座ろうとすると、いきなり光が現れる。スポットライト否、蛍光灯のようなものだった。しかも、蝿がたかっている始末でロマンティックの欠片さえない。泣きたくもなったが其れよりも驚いた。なんと昔、絵本で見た主人公の洋服そっくりなのだ。恐らく、その本の題名は不思議の国のアリス。なんと王道だろう。鋏を持っていたらフリフリのところをざくっと切ってしまおうかとも思った。こんな、フリフリな洋服は大嫌いだ。しかも、頭にはカチューシャ。鏡を見たら、恐らく割ってしまうほどの気持ち悪さ。乙女チックなんて私には似合わない。
 昔から男勝りと言われてきた。体つきも父ににて少しだけ筋肉質。顔も確かに美形とは言われるが、切れ長な瞳と一重瞼ときりっとした表情が男らしさを醸し出している。女の子らしい男の子と良く勘違いされる。小学校の頃だろうか。髪を一つに束ねていたら似合わないと男子に嘲笑された。家に帰って大泣きした私は、その頃からボブショートに変更した。
 酷く嫌な思い出が頭に溢れる。気づいたら、私は歩いていた。早くも遅くもない速さ。だけど、足取りは最悪。すると、笑い声が聞こえた。薄気味悪い、背筋が凍るような笑い声だ。私はぞっとしたがすぐに瞳をきりりとさせ、その気味悪い声がする方を向く。

「ふははは、惨めな姿だね。望」
「あ、アンタは……」

 シルクハットを被った謎の男。でも、私がよく知っている男だ。名前を言おうとすると、急にぱっと明るくなり部屋が現れた。なんとも目がチカチカするような色合いだが、これで確定した。

「変人っ!」

 叫ぶと、男はこけっというリアクションを取った。酷く長い兎の耳は変人としか他に言いようが無い。もしくはコスプレオタクとでも良いだろう。だがしかし、美形には違いなかった。端正な顔立ち。色白な肌。くっきりとした顔彫り。若しかしたら私よりも女の子らしいかもしれない。

「ま、いい。そんなことだろうと思ったよ」

 と、呟きながら男は高い塀からさっと降りてきた。先程までは本棚の上に乗っかっていたというのに、おかしい。私がいる場所も変わってしまっている。気づくと男は私の顎を優しく掴んでいた。意外なことに私よりも背が高く足も長い。間近で見ると本当に可愛らしい顔立ちをしている。
 すっと姿が消えた。彼は跪いて私の手に口付けをした。一気に顔が火照っていくのが分かる。そして、男は先程とは違った雰囲気でこう呟いた。

「望。僕は君のパートナーだ。この世界を攻略する。君の夢の案内役だ。たまに違う僕が出てくるかもしれない。先程の僕が、そうだ」

 なんとも意味が分からない。けれど、紳士らしくなっているのは確かで、何処となく王子様とも見えてきた。さっきまでは普通の兎のような悪戯っ子だったのに。

「僕の名は、ムーン。君は……」

 私と同じ目の高さになる。そして、くしゃっと笑みを浮かべると私の視界はそれで途絶えた。吃驚したので瞳を開ける。すると、目の前には男もといムーンの顔。なんと言っても唇の感触がこう告げていた。彼は私に口付けをしている、と。思考回路がショートした。寸前じゃなくてもうなっている。何にも考えられない。甘く蕩けそうだ。唇が離れると、彼は言葉を続けた。

「君はアリス。今日から君は、この夢の世界の有栖だよ。さあ、旅に出よう。君が此処に来るまでの記憶を思い出すまで、旅は終わらない」

 シルクハットを取り、彼は手を差し伸べた。私はその手を叩く。

「勝手にキスする奴なんぞと一緒に行けるかってんだ!」

 あかんべえをして、私はムーンを無視して先を歩く。目の前には腐敗している森が広がっている。別にいい。彼が私を助けて、私が彼を助ければどうにかなる道だろう。何となく、何となくで微かだけど彼が呟いた言葉が耳に届いた。

「不思議な有栖だ。でも、それが……」

 声が消えた。吃驚して後ろを振り返ると、彼はいない。どうしたのかと思うと、右手に温もりが伝わってきた。隣を見ると憎たらしい笑みを浮かべているムーン。嗚呼、脳髄まで彼に侵されてしまいそうだ。私は耳まで全身を火照らせ、彼の手を引くように森へと入っていった。

 不思議、フシギ。それは、フシギで不思議な貴方との旅の始まり。

fin
PR

アトガキ

赤い花束を君に


「花、欲しいっ」

 屈託ない笑みを浮かべ、窓の外を見ている少女。其れは確かに、隣にいる青年に向けられていた。少女は灰色の髪に細い腕に白い肌。まるで病弱な少女のようだが、着ている衣服はノースリーズのワンピース一着という健康的な格好をしている。青年は対照的で重たい鎧を纏っており、青い髪をしている。少女はベッドで寝そべっており、看病をしているのか青年は林檎を剥いていた。突然のことなので、青年は顔を顰めた。

「どんなのだ」
「ヴェールみたいな、かっこいくて、大きな花」
「格好いい、だろ」

 とヴェールと呼ばれた青年は小突いたが、内心では凄く照れていた。少女は微かでも笑い声は上げないが、満面の笑みを浮かべている。しかも、「大きい大きい」と言って未だ手を大きく広げている。其の姿はとても凛々しく愛らしいものだ。
 少女は、白翼と呼ばれる種族だ。大昔からこの存在はあり、箱庭世界として白翼がいる世界は区切られている。白翼が故意に対なる存在の黒翼という種族に殺されてしまうと、世界の破滅に晒されてしまう。人々は、白翼と黒翼の護衛で戦争をしている。しかし、まだ黒翼は襲来してこないので誰しも平和ボケをしてしまっていた。
 ヴェールは白翼の護衛部隊で父は隊長という身分だ。彼もまた、将来は隊長格になるかもしれないと期待をされている。しかし、ヴェールはそんなお偉い身分は目指していない。今、目の前にいる彼女を救えたらそれだけで彼の幸せなのだ。そして、こうして笑っていられることが。

「欲しい」

 先程まで笑っていた彼女も、本気になったのか上目遣いでヴェールを見上げる。居た堪れなくなった彼は「しょうがないな」と呟きながら、急に部屋を飛び出した。長い廊下に厭になるような螺旋階段。ヴェールは庭に薔薇が咲いているのをこの間発見した。少女と共に見たので鮮明に記憶が残っている。果たして、彼女が覚えているかどうかは不安なのだが。白翼は年齢を重ねる毎に言語も何もかも総て不十分になってしまう。脳が縮小されてしまうのだ。黒翼部隊が襲い掛かってくる前に、白翼が病気によって亡くなってしまい、世界は秩序を護ってきた。だからこそ、こうして少女とヴェールは出遭えたのだ。
 やっとこさ庭に着くと花畑へ足を運ばせる。すると、予想通り、一面は赤く染まっていた。棘に気をつけながら、ヴェールは取っていく。王も少女のためとなると頭があがらなくなるのだ。この花畑は王が所有しているので、説得すればなんとかなる、ということをヴェールは知ってる。花束が出来上がった。見るだけでうっとりとするその花束は、まるで少女を連想させた。ヴェールはまた走る。

「ルノワールっ!」
「ヴェール……」

 とても悲しげな瞳を持つ、少女。どうしたのかと思いヴェールは歩み寄ると、すぐに彼女は笑みを浮かべた。その花束に気づいたのだろう。先程までの泣きそうな表情は消えてしまった。

「綺麗、きれいっ」
「だろ?」
「ヴェールは汚い……」
「うわっ。御免、ちょっと泥落としてくる」

 ぺこりと少し頭を下げ、部屋を出ようとするとルノワールに袖をつかまれる。何かと思い振り向くと、また彼女は悲しげな表情を浮かべていた。

「何処にも、いかない」
「……ああ。御免な」

 頭を優しく撫でると、またルノワールは笑みを浮かべて、花束を見てうっとりとする。こうして見ていると平和はいつまでも続くようで、このときは永遠だとヴェールは思っていた。
 しかし、崩壊はすぐそこに、来ていたのだ。

fin

アトガキ

恋心、燃え盛り時


 穏やかなお昼休みに突入した。俺は何時も通り、屋上に行き、コンビニで買ったパンを食べようとしていた。すると、幼馴染の女が行き成り、隣に失礼したのだ。何時もは友達とわいわい教室でお弁当を食べている。今日は一体如何したというのだろう。
しかし、俺達はどちらも口を開こうとはしなかった。あー、このまま貴重な休み時間が終わってしまうのかと思うと身震いをしてしまう。溜息をつこうとした。
「ムカつく!」
 すると、咄嗟に彼女は叫びだした。パンを食べていた最中だったので、驚いて俺は口内に入っていたものを噴出した。牛乳じゃなくて心底良かったと思ったが、彼女――衣咲はそうでもなかったらしく、先程よりも憤慨していた。当たり前のことだろう。だって、卸したての制服が、俺の口内に入っていたパンに汚されてしまったのだから。
「ちょ、臭い! てか、汚いっ。早く拭いてよ」
「あー、すまん」
 と、適当に謝っておく。この状況でキザに「牛乳じゃなくて……よかったな」なんて言ったら、殴られ蹴られ更に酷いことをされかねない。衣咲は、女だからといって舐めて掛かってはいけない存在だ。小学校の頃から直ぐに暴力は振るうし、口も悪い。まるで餓鬼大将のようだ。というよりも、餓鬼大将だった。活発すぎる、俺にとっては厄介者だった。
 その頃と比較すると、こいつは大層成長したと思う。女らしくなったし、背もそれなりに高くなったし。あ、其れは当たり前か。其れに、胸まで発達している。尻は昔からいい形だったし……って、変態か、俺は。
 煩悩を振りほどこうとすると「早くっ」と牙をむいた衣咲が偉そうに俺の前に立っていた。白いハンカチを手に持っている。拭け、と命じているのか。普通は、男の俺に頼まないだろと不服そうな表情を浮かべた。無視をして、牛乳に手を伸ばそうとしたら、其れよりも先にぴしゃんと手の平を打たれる。

「なあに、無視しようとしてるのお? 早く拭きなさいっ」
「……普通は同性に頼むと思うが」
 と、俺が噴出したパンだらけのスカートを指差す。すると、衣咲は顔を真っ赤にさせ其の儘、後ずさった。怒りのせいで自分のことも見えなかったのか。この女は。そして、牛乳のストローを口の中に入れる。
「あのね、聞いてくれる。私のお悩み」
「嫌だといったら……」
「ふざけんな」
「はい、ちゃんとご静聴します」
 見事な脅迫。泣きたいぞ、と心で思うと、其れを感じ取ったのかなんなのか、衣咲は急に泣きそうな表情になった。でも、俺みたいな一時的なものじゃなくて、溜め込んでいたのだろう。その”お悩み”とやらを。
「好きな人、いるの」
 そりゃ、お年頃の女の子だからな。
と、心の中ですばやく突っ込んでみる。
「その人は格好よくないし。頭も悪いし。あ、でもスポーツはできる。それと、背も高いしやけに筋肉質だし」
 酷い言い様だな。その男、惨めで可哀想だな……。本当に衣咲は悪趣味だなあ。
「ぶっきら棒で面倒くさがり屋で。でも、優しい人。だから、クラスの評判もぴか一なんだ」
 クラスの奴らは、すっごい悪趣味な奴なんだな。うんうん、と勝手に頷く。すると、そんな姿を見た衣咲はくすりと微笑んでいる。何だよという顔で睨むと、行き成り怖い顔になった。致し方ないので、しょんぼりしていると続きを話し始めた。
「人気投票ではいつもナンバーワン。ライバルも多くて大変なんだ」
「……で、其れが何のお悩みなんだよ」
「こっからが重要だから、ちゃんと耳澄まして聞きなさいね」
 もう一度、脅迫。こいつは絶対に彼氏できないぞ、と心に思い、命令通りに耳を澄ましてみる。
「そんな私の好きな人……判る?」
 微風に吹かれて、靡く栗色の長い髪。太陽がまぶしいのか細められた瞳。艶っぽく大人びた表情。俺の口は蠢いていた。答えようとしない俺に、衣咲は見兼ねたのか、立ち上がって指を差した。
「それは……」
 キーンコーンカーンコーン、いいところでのチャイム。こけっという効果音とともに、衣咲は少しだけ転げた。よし、リアクションは満点だなと思い指で丸を作ってみた。すると、衣咲は顔を真っ赤に染めて、回れ右をした。
「ちゃ、チャイム鳴っちゃったから。そ、そんじゃ先に戻ってるわね」
 駆け足よーい、始め。という号令が似合っていた。あ、この丸は余計だったか。と思い、全ての行動を振り返ってみてみるととても恥ずかしいものだった。

「その人は格好よくないし。頭も悪いし。あ、でもスポーツはできる。それと、背も高いしやけに筋肉質だしぶっきら棒で面倒くさがり屋で。でも、優しい人。だから、クラスの評判もぴか一、人気投票ではいつもナンバーワン。ライバルも多くて大変。そんな私の好きな人は……」
 言わなくても判る。
「だって、其れは……」
 その声も、もう一つのチャイムにかき消された。やばい、授業に遅刻してしまう。嗚呼、牛乳よ。腐れないでくれ給え。
 そして……、この恋心よ、いつまでも燃え盛っていてくれ。

/恋心、燃え盛り時

アトガキ

冷静素直(クーデレ)彼女の苦手なもの


 彼女はいつも澄ましている。って、多分、彼女はすましてるとかは意識して無いだろうとは思うけど、僕から見ればとてもクールな女だ。けれど、素直でいつも「好き」とか言ってくれる。其処は嬉しいことだ。
 でも、弱点や苦手物がない。お化けも平気だし虫だって普通に触ってるし、雷や自然災害だって微動だにしない。女の子特有の「きゃあっ」っていう金切り声も聞いたことがない。いつも低く恐ろしい声をしている。勿論、彼女はそんな気、更々ないのだ。自分が低い声だとか、女らしくないとか。
 今日はそんな彼女の家にお邪魔している。僕達は高校生だが、同棲とかも考えていたりする。勿論、結婚を前提にお付き合いをさせてもらっている。まだ早いとか世間は言うけれど気にしない。だって、あと一年したら立派な大学生にあがれるのだから。そんな楽しい生活を思い浮かべていると、キッチンに立っていた彼女が訊ねてきた。
「今日は何時に帰る?」
 じゅーじゅー、という揚げ物を揚げている音が耳に届いてくる。微かで消え入りそうな声で少ししか聞こえなかったが、僕は届くように言った。
「あー、九時くらいかな」
 ソファにあったクッションを思わず抱きかかえて反応を伺った。突っ込まれるかぶん殴られるかのどっちかだと思う。それか説教を食らうか。どれにしても光景が目に浮かぶ。多分、僕はマゾヒストで殴られるのが快感になってきているのだろう。彼女が隠れサディストだから仕方の無いことなんだろうけど。
 しかし、返ってきた答えは意外なものだった。

「ああ。判った。じゃあ、あと三時間もいられるな」
 ひょっこと見せた笑顔。不意すぎて思わず鼻血が出てしまうそうになった。とても反則的だ。なんだ、その屈託の無い無邪気な笑顔は。今まで見せたことがなくて、僕は腰を抜かしそうにもなった。今すぐ抱きしめてやりたい。

「きゃあああああああ」
 行き成り、叫び声が轟く。隣の人かと思ったが、それは違う。だって、彼女の声で「幸成ーっ」と呼ばれたからだ。僕は呆然としていたがすぐにスイッチは入った。すぐにキッチンへ出向く。すると、其処には蠢く黒色の物体。
「ごごごごごきぶりっ」
 彼女は泣きそうな顔で此方を見る。僕はすぐにスリッパを脱ぎ、しとめに行った。僕だってゴキブリは苦手だし潰すのだって抵抗がある。でも、愛しい彼女を泣かす奴は絶対に許せない。靴下で踏み潰してやっても充分なほどなのである。ぐちゃり、厭な感触と音がする。スリッパをどかすと、潰れている黒色の物体。ティッシュで即座に拭き取り、ティーシャツの裾で掻いていないのに額を拭う。それが「ホラ、終わったよ」のサインだ。

「ああ、有難う」
 あれ、何かまた期待と違う反応。いつものキリリとした表情に戻ってしまった。先程までは目を潤ませて一つに結わえていた灰色の長い髪を少し揺り動かしていたと言うのに。今はもう平常心になってしまっている。
「え、それだけ?」
「うん。それだけ。他に言うことはないだろう」
「……。そうですね」
 包丁を持ち始めた彼女にはもう何もいえない。ただ、ゴキブリが苦手っていうことだけは心に留めておこう。他の誰かに行ったら、恐らく僕の命はないような気がする。

「幸成、スリッパ洗っておいてくれ。ゴ……臭と幸成臭がごっちゃになってしまう」
「えっ! 俺の存在価値はゴキと同等ですかあっ」
「勿論だ。ホラ、早く食え。焼肉なんて一年に一度しか出さないぞ」
「……はい」
 少しだけ、冷静素直(クーデレ)彼女が笑ってくれた。そんな気がした。

fin

アトガキ

不思議な双子の世界

 よく似ている。この二人を見ているといつもそう思う。同じ顔立ち、同じ体系、同じ声など指折り数え切れないほどの多さ。しかも、私の目の前で媚びている二人はまるで同じ。今は彼等と遊んでいる途中だ。私は幼稚園の先生という立場で、彼等は生徒と言う立場。高鬼、という極普通の遊戯だ。いつも、私が鬼になると此方へ来て縋ってくる。その姿が可愛くて思わずその小さな腕に触ってしまう。本当にむちむちしていて、赤ちゃんのようだ。私は思わずぽけーっとしてしまった。
「「ねえ、先生早くしてよ」」
 二人の合わさったハーモニーに私は正気を取り戻し、無理矢理笑顔を作り「はい」とタッチをした。勿論、どちらをタッチしたのかは分からない。ズボンに名前が書いてあるのだが、此処からでは名札でさえ見えない。恐らく弟の方だと思う。名前は、草壁翔也と草壁雅也。名前でさえ瓜二つである。

「うわー、翔也かよーっ。いっつも翔也だよな、先生って」
 雅也君が口を尖がらせつんとした顔で私を横目でちらりと見る。その横顔はとても可愛らしかった。けど、本当にわざとではないのである。いつも右にいるのが翔也君で……って裏を返せばわざとなのかもしれない。その法則を知っているから。
「ま、いいじゃん。早く十数えるから、雅也と先生逃げてよ」
 有無を聞かず、翔也君は「いーち、にー」と数え始めた。他にももっと園児は沢山要るが、此処の砂場にいるのは私達だ。早く逃げなくてはと思い、私は咄嗟に雅也君の手を引き、遠くの草葉へと駆けていった。

「此処なら大丈夫……」
「みんな此処にあんまり来ないからね」
 雅也君が荒ぶる息を整えようと、深呼吸をしている。「きゃーきゃー」と騒ぐ園児達の声に耳を済ませながら、胸に手を当てて目を瞑っている雅也君を見つめる。すると、気づかれたようで「なあに」と聞かれた。私は日々思っていることを訊ねた。
「双子って変な感覚しない?」
「カンカク?」
「あの、なんか自分と一緒の顔の人が隣にいるとかさ」
「別に。翔也と僕は全然違うもん。だから、なんとも思わない。きっと翔也だってそうだよ。僕達は全然違う」
 砂を弄りながら自分なりの言葉で真面目に言う。この子は本当に成長したと心底思う。初めて会った時は口さえ利いてくれなかったのだから。翔也君はすぐに打ち解けてくれたけど、引っ込み思案の雅也君は多分、私のことを認めてくれていなかった。けど、今はこうして本心を言ってくれる。とても幸せだと思う。
 でも、本当に不思議で仕方が無い。ま、別にそれでもいいか。

「先生たっちぃー」
 能天気な翔也君の声がする。後ろを振り向くと、げらげらと笑っている翔也君。隣にはにんまりと怪しい笑みを浮かべている雅也君。やはり、あくどい作戦だったのか。
「ちょ、卑怯だよっ」
 子ども染みているのは私の個性でもあり、短所でもある。
「卑怯って言葉、知りませーん。ホラ、早く十数えてよ」
 今度は雅也君。翔也君は笑いすぎて声も出ないようである。こしょこしょをしてやりたくなったが、此処はぐっと抑えて「いーち」と数えだす。すると、今度は擦り寄ってこないで逃げ出した。二人して、仲良く手をつないで。

「じゅーうっ」
 近くの子を捕まえようと思った。双子はどうせ、二人仲良く遠い砂場で遊んでいるのだから。

fin

アトガキ

新着記事
(12/01)
(12/05)
(12/02)
(12/02)
(11/10)
"ココはカウンター設置場所"