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運命(仮)
貴女は言った。
私が殺されても、助けに行くって。
だから、私は殺されに行く。
それでもいいよね?
貴女は言った。
「愛してる」
「駄目だっ、駄目だっ、駄目だっ、だめだああああああああああああっ!」
私が殺されても、助けに行くって。
だから、私は殺されに行く。
それでもいいよね?
貴女は言った。
「愛してる」
「駄目だっ、駄目だっ、駄目だっ、だめだああああああああああああっ!」
.
清清しい陽気に恵まれた今日は、聖徳太子と面会。この国のお姫様らしいが、人々の噂だとそんなに気品の溢れた人ではないようだ。人々と言うのは朝廷の方々なのだが。
だが、僕が見た太子は可愛らしく気品の或る姫だったと思う。冷静で頭が良さそうで何でも出来る。そんな女性だったと思う。記憶違いかな、といつも思ったりもするが、極稀に僕と同意見の人もいる。だから、少しだけ一安心できる。
そういえば、この国は危機に曝されているらしい。太子の暗殺とか色々絡んでいるだろうけど、詳細は誰でも教えてくれない。僕だってもうすぐ成人だと言うのにそんな扱いは酷いと思う。朝廷の人々はまだ僕のことを子供だと思っているのだろう。全く、と溜め息をつきながら正装に腕を通す。念のため、鞘を差しておく。僕だって一応は有名人だ。太子の次の次の……とりあえず、身の危険はある。だから、防具は必須なのである。
伸びをし、遅刻をしないように一歩踏み出す。久しぶり、いや、初めての太子との対面。僕の心は疼き出していた。
.
多分、僕と太子が対面したのは幼い頃だったと思う。彼女は鞠付きをしていた。両親も友達も何もいない僕は、一人で原っぱで昼寝をしていた。その時、顔面に小さな鞠が当たったような気がしていた。心配そうに覗いていたのは誰でもない、太子だったに違いない。
「だいじょーぶですか?」
一瞬にして、僕は恋をした。こんなに美しい人がいるなんて、初めて知った。その頃は太子なんて偉大な存在知らなかった。
.
僕は時折小躍りをしていた。なんとも滑稽なんだろうと自分でも罵りたくなったが、こんな嬉しいことはこれから先もないだろう。だから、今、嬉んでおくしかないのだ。すると、厳つい人が門前に立っているのが見える。大豪邸といった方がいいのだろうか。後ろには物凄い大きさの建物がある。渡り廊下を歩いたらすぐなんて、どうにかしてる。この建物は。
近づいていくと、すっと厳つい人達は引いていく。うん、やっぱり僕にも権力はあるようだ。恐る恐る重い扉を開けると、其処には輝かしい世界が待っていた。
其の世界は女性ばかりだった。周りを取り囲んでいるのも、綺麗な服を着た綺麗な女性。そして、中央に座っているのが……青いジャージを着た聖徳太子?大きな瞳と長い睫毛、小さな唇に背中まで伸びた髪は噂通りの彼女だ。挙動不審に目をぱちくりさせている僕を見かねてか、周りの女史は一旦引けていった。僕と太子、二人だけになる。しかし、喉が渇いてか僕の口からは言葉が出ない。すると、先程まで無口で僕を睨みつけていた太子がいきなり声を出したのだ。
「あーーーーーーーーーっ! 小さい時、会った事あるよーな気がするぅっ」
「えとー……」
「まず、挨拶でしょ」
「あ、はい。初めまして。使者として選ばれました。小野妹子です」
「うんうん」
頷きながら笑みを浮かべる。彼女はとても可愛らしい。
「どうぞ宜しくお願いします」
「此方こそ、お願いします。妹子」
小鳥のようなすがすがしい声。屈託の無い笑顔。やっぱり、この人は変わっていないのだ。お気楽になろうとも何になろうとも、聖徳太子は聖徳太子であり、僕の憧れの人なのだ。次第に顔が綻んでいくのが判る。すると、いきなり太子が大声を出した。
「もう、妹子かわゆいーっ!」
と言いながら立ち上がり、僕に擦り寄ってきたのだ。当然、僕の頭は空っぽになった。嬉しさ半分、驚き半分で僕の思考回路は異常を来した。そして、目の前が真っ暗になった。しかも、格好悪い……鼻血を出しながら。
.
「ねえ、鬼男くん」
書類を前に頬杖をつきながら男は青年に問いかける。その声は一度聞くとやさしく聴こえるが、鬼男と呼ばれた青年にはとても恐ろしく聴こえた。いつもとは違う声色に鬼男は驚いたが、直ぐにしゃんと背中を伸ばして「何ですか?」と尋ねた。男は唸りながら考え込んでいた。暫しの沈黙が流れる。
「いや、特にこれってことでもないんだけど……」
鬼男は突っ込みをいれようと構えたが、また男は声色を変えて、しかも似合わずの笑みで言った。
「多分、私たちの想像を超えるようなシナリオが出来上がるかもしれない」
「だいお……?」
「いや、何でもない。うし、今日もゴメスのところに行ってからかってこよーっと」
閻魔大王、其れが彼の名前だった。
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運命(仮)
キャラ設定
聖徳太子(厩戸) 女
御国のお姫様。
幼少期は皇子(救世主)として育てられた。
しかし、小野妹子という騎士が現れたので十歳になると、姫という立場で育てられることになる。
そして、成人になる歳の夏、何者かに暗殺されそうになる。
お転婆でド天然。妹子に甘えまくる。
妹子のことが大好き。
暴走すると殺人鬼となり誰も彼も傷付けてしまう。
殺人鬼のスイッチがONになるのは誰にもわからない。勿論、本人自身にも。
小野妹子 男(?)
御国の騎士。
腕っ節は天下一ともいえる。
本人はその気が無かったのだが、馬子によって姫の護衛を命じられる。
最初は太子のことが気に入らなかったが、段々と嵌っていく。
太子と一歳差で年下でありながらも、兄のように振舞う時も或る。
無自覚で疎い。逆プロポースをされてもポケラーンとしている。
女性には優しいが、太子には容赦ない。恐らく、愛情の裏返し(太子曰く)。
必殺技は「回し蹴り」。装備は剣に赤ジャージ。
閻魔大王 男
裏で何かやってる一人。
けれど、本人曰く「二人の味方」。
女好き。だが、太子には興味がないようである。
表は明るく意味の分からないオッサンだが、裏は何を考えているかわからない。ブラックで謎が多い人。
秘書の鬼男にも隠していることがある(らしい)。
鬼男 男
閻魔の秘書。
閻魔をイカ呼ばわりする唯一の人材。
一番の毒舌でなにか悪口を言わせたらもう止まらない。
閻魔の隠し事は知っているが認めようとはしない。
随時登場☆
(今考えてるのは夕子さんとか半蔵とか北島とか。曽良くんと芭蕉さんは出ない。たぶん)
/細かい設定
「輪廻」
太子を助けるために各地、各世界、色々な時代を飛び回ること。
閻魔の秘めたる能力(チカラ)による。
それで、太子を暗殺しようとする「暗黒の者」を倒すという旅。
色々仲間が加わるが、それはそれで。
「暗黒の者」
太子を暗殺しようとする者。
色々な空間にいるので強さも様々。十人十色。
裏で閻魔が操っているという噂も……?
「御国」
倭国の意。
「殺人鬼」
太子のこと。
太子の過去は一切不明。
狼少年と美少女(、の最悪なスタート)
昔々のある時代。あるところに一人の少年が住んでいました。釣り目でいかにも悪餓鬼といった風貌です。その少年の名前はジョニーと言いました。彼は一匹狼と言われており、農夫の一人息子でもありました。大事に育てられている、といつも言われますが、彼はいつも怒られてばかりです。誰かを怪我させて両親を呼ばれたり、悪事を働いているので先生からの評判も、親からの信頼もありません。勿論、愛情なんてもの一切判らなかったのです。
しかし、彼は或る日、一人の少女と出逢いました。その少女の名はアニーといい可愛らしい美少女でした。ファンシーなものが似合う、とてもとても暴力的な行為とは離れた清純な少女。そんな子が隣に越してきて、しかも翌日には転校してきたのです。ジョニーの心は段々とアニーに惹かれていきました。話したことすらないのに見ているだけでドキドキしてしまうのです。
今日は学校が休みの日です。ジョニーは暇そうに原っぱに寝転んでいました。眼下に広がる大自然はもううんざりするくらい見たし、遊ぶ友達だっていない。彼は咥えていた草をぺっと吐き出すと視線を羊から空に移しました。青空の中で揺らめいている雲。風に吹かれゆれている草木はとても清清しい気分にさせます。ゆっくり瞳を閉じようとすると、何か人影が映ったような気がして、ジョニーはもう一度瞳を開けました。すると、木にぶら下っている少女がいたのです。普段なら放っておきますが、彼はとてつもなく顔を赤らめ声をひっくり返しながら尋ねたのです。
「ちょ、ちょ、ちょっ!」
少女は額に汗を掻きながらも、引き攣り笑いを浮かべ「こんにちは」と軽やかに言い放ちました。ですが、次の瞬間、彼女の腕にも限界がきたのでしょう。そのまま落ちていってしまいました。ジョニーは頭が真っ白になりました。気づいたら、アニーをお姫様抱っこをして家へ連れて行こうとしている最中でした。
(何やってんだろう)という後悔が生じましたが、今は彼女を安全な場所へ連れて行くことしか考えていません。アニーは最初は抵抗しようと思いましたが、優しいその気持ちに少し甘えました。少し足首を痛めて歩けなくなったと言うのもありますが、ただ彼の胸と腕に体を預けるのもありえなくはない、と思ったのです。
ベッドの上。大袈裟にアニーの足は固定されていました。最初は黙っていた二人でしたが、段々と包帯が巻かれていくに従ってアニーは泣きそうな瞳で足首を指差しました。
「不恰好! しかも、ただ捻っただけなのになんでこんなに……」
「しょ、しょうがないだろっ! 怪我したお前が悪い」
「な、なによぉっ」
といい、膨れっ面をしました。そこで二人の会話が途切れてしまいます。二人とも罰が悪そうに俯くだけで顔を見合わせようともしません。すると、壁にかけてあった鳩時計が可愛らしく鳴り響きます。時刻はもうすぐで夕刻を指そうとしています。アニーははっとした表情になり、ベッドから飛び下りました。痛みに少し顔を歪めましたが、一言大きな声で置いて行きます。
「あっ、あたしの門限五時だから。もっ、もう帰るから。じゃね、ジョニー君」
とすぐさま風のように走り去っていきました。ジョニーは引きとめようとしましたが、彼女の速さにはついていけそうもないので諦めてふっと溜め息をつきました。暫くの間項垂れていると、彼女が通っていた道をふと見つめます。
「足が痛かったんじゃねーのかよ……」
髪を掻いてから、先程まで彼女が寝ていたベッドにうつ伏せに飛び込みます。彼女の甘酸っぱい匂いが鼻を刺激し、彼の頭も刺激していきました。天井を見つめると、浮かぶのはアニーの赤らんだ顔や笑った表情です。ジョニーは一気に恥ずかしくなり、「ああっ!」と叫びながら枕を壁に投げつけました。まだ胸の中のむしゃくしゃが消えないので一発ベッドに拳を突きつけます。すると、何時ごろか帰ってきた親がいきなり扉を騒々しく開けて怒鳴り散らします。
「静かにしてよっ! あんた、弟ができたこと忘れたの?」
「あー、すんませんでした」
起き上がったと思いきや、すぐにベッドの中に潜り込みそのまま瞳を閉じました。煩かった親も呆れたのかすぐに後退していきました。扉が閉まる音と同時にジョニーは眠りに落ちました。
.
「ふっざけんなあああああああああっっ! だれがあんな女なんかと一緒にいくかよっ!」
あれから一週間後、色々なことがあり、アニーとジョニーは親密な仲になりました。すると同時に彼の恋心も萎れていきました。というのも、アニーがジョニーよりも腕っ節が強く男勝りだったからです。犬猿の仲となった今では一緒に学校へ登校、なんて恐れ多いことのひとつなのであります。いつサバイバルが起きてもおかしくない、そんな状態なのです。
けれど、親はそんなこと分かっちゃありません。誰とも仲良くしようとしなかったジョニーが、友達を、しかも女の友達を家に連れ込んできたのですから嬉しいにもほどがありません。
朝から喧嘩をしていると、呼び鈴がいいタイミングで鳴り響きました。母は人が変わったように「はーい」という声を出します。ジョニーはトーストを食べながら、小さな椅子に座っており、且つ隣にいる弟とじゃれあおうとした。其の時です。
「ジョニーっ! アニーちゃんが来たわよーっ」
「一緒にいこーっ。あたしたち、たった二人の友達じゃない?」
蒼褪めた顔、笑っている弟、悪魔の笑みを浮かべている女。
最悪な二人の関係が始ろうとしています。
(fin)
しかし、彼は或る日、一人の少女と出逢いました。その少女の名はアニーといい可愛らしい美少女でした。ファンシーなものが似合う、とてもとても暴力的な行為とは離れた清純な少女。そんな子が隣に越してきて、しかも翌日には転校してきたのです。ジョニーの心は段々とアニーに惹かれていきました。話したことすらないのに見ているだけでドキドキしてしまうのです。
今日は学校が休みの日です。ジョニーは暇そうに原っぱに寝転んでいました。眼下に広がる大自然はもううんざりするくらい見たし、遊ぶ友達だっていない。彼は咥えていた草をぺっと吐き出すと視線を羊から空に移しました。青空の中で揺らめいている雲。風に吹かれゆれている草木はとても清清しい気分にさせます。ゆっくり瞳を閉じようとすると、何か人影が映ったような気がして、ジョニーはもう一度瞳を開けました。すると、木にぶら下っている少女がいたのです。普段なら放っておきますが、彼はとてつもなく顔を赤らめ声をひっくり返しながら尋ねたのです。
「ちょ、ちょ、ちょっ!」
少女は額に汗を掻きながらも、引き攣り笑いを浮かべ「こんにちは」と軽やかに言い放ちました。ですが、次の瞬間、彼女の腕にも限界がきたのでしょう。そのまま落ちていってしまいました。ジョニーは頭が真っ白になりました。気づいたら、アニーをお姫様抱っこをして家へ連れて行こうとしている最中でした。
(何やってんだろう)という後悔が生じましたが、今は彼女を安全な場所へ連れて行くことしか考えていません。アニーは最初は抵抗しようと思いましたが、優しいその気持ちに少し甘えました。少し足首を痛めて歩けなくなったと言うのもありますが、ただ彼の胸と腕に体を預けるのもありえなくはない、と思ったのです。
ベッドの上。大袈裟にアニーの足は固定されていました。最初は黙っていた二人でしたが、段々と包帯が巻かれていくに従ってアニーは泣きそうな瞳で足首を指差しました。
「不恰好! しかも、ただ捻っただけなのになんでこんなに……」
「しょ、しょうがないだろっ! 怪我したお前が悪い」
「な、なによぉっ」
といい、膨れっ面をしました。そこで二人の会話が途切れてしまいます。二人とも罰が悪そうに俯くだけで顔を見合わせようともしません。すると、壁にかけてあった鳩時計が可愛らしく鳴り響きます。時刻はもうすぐで夕刻を指そうとしています。アニーははっとした表情になり、ベッドから飛び下りました。痛みに少し顔を歪めましたが、一言大きな声で置いて行きます。
「あっ、あたしの門限五時だから。もっ、もう帰るから。じゃね、ジョニー君」
とすぐさま風のように走り去っていきました。ジョニーは引きとめようとしましたが、彼女の速さにはついていけそうもないので諦めてふっと溜め息をつきました。暫くの間項垂れていると、彼女が通っていた道をふと見つめます。
「足が痛かったんじゃねーのかよ……」
髪を掻いてから、先程まで彼女が寝ていたベッドにうつ伏せに飛び込みます。彼女の甘酸っぱい匂いが鼻を刺激し、彼の頭も刺激していきました。天井を見つめると、浮かぶのはアニーの赤らんだ顔や笑った表情です。ジョニーは一気に恥ずかしくなり、「ああっ!」と叫びながら枕を壁に投げつけました。まだ胸の中のむしゃくしゃが消えないので一発ベッドに拳を突きつけます。すると、何時ごろか帰ってきた親がいきなり扉を騒々しく開けて怒鳴り散らします。
「静かにしてよっ! あんた、弟ができたこと忘れたの?」
「あー、すんませんでした」
起き上がったと思いきや、すぐにベッドの中に潜り込みそのまま瞳を閉じました。煩かった親も呆れたのかすぐに後退していきました。扉が閉まる音と同時にジョニーは眠りに落ちました。
.
「ふっざけんなあああああああああっっ! だれがあんな女なんかと一緒にいくかよっ!」
あれから一週間後、色々なことがあり、アニーとジョニーは親密な仲になりました。すると同時に彼の恋心も萎れていきました。というのも、アニーがジョニーよりも腕っ節が強く男勝りだったからです。犬猿の仲となった今では一緒に学校へ登校、なんて恐れ多いことのひとつなのであります。いつサバイバルが起きてもおかしくない、そんな状態なのです。
けれど、親はそんなこと分かっちゃありません。誰とも仲良くしようとしなかったジョニーが、友達を、しかも女の友達を家に連れ込んできたのですから嬉しいにもほどがありません。
朝から喧嘩をしていると、呼び鈴がいいタイミングで鳴り響きました。母は人が変わったように「はーい」という声を出します。ジョニーはトーストを食べながら、小さな椅子に座っており、且つ隣にいる弟とじゃれあおうとした。其の時です。
「ジョニーっ! アニーちゃんが来たわよーっ」
「一緒にいこーっ。あたしたち、たった二人の友達じゃない?」
蒼褪めた顔、笑っている弟、悪魔の笑みを浮かべている女。
最悪な二人の関係が始ろうとしています。
(fin)
哀傷
妹子の嗚咽が聞こえる。どうしたんだろう。けど、聞くことが出来ない。もどかしさが握られた拳の中で動き出す。一歩踏み出したら拒絶されるだろうか。恐ろしさが込み上げてくる。右往左往していたら、がちゃりと扉が開いた。真っ赤な瞳にぐちゃぐちゃな顔。だけど、可愛らしいその表情は妹子そのものだった。
「……夜遅くどうしたんですか」
不機嫌な声。やはり、来てはいけなかったんだろうか。しどろもどろに口を動かしていると妹子は徐に不機嫌な顔になっていく。妹子は溜め息をつき奥を指差してより一層不機嫌そうに呟いた。
「中、入ってください。セーターも着ないで寒いでしょう?」
不機嫌なのにこうして気遣ってくれる。恐らく、私のことはただの優しくてうざったい先輩だとしか思っていないだろう。現に妹子は、私の知らない男に先程告白して振られたのだ。握り締められている携帯で判る。
私は変な胸騒ぎがしたので此処に来た。今日決着つけますという頼りない笑顔が胸の中から離れなかったのだ。男の勘というのも当たるらしく、来てみたらやはり彼女は泣き喚いていたのだ。
上がると甘い妹子の匂いが漂ってくる。自分の頬が紅潮していくのが判る。だから、ふわふわな絨毯に座るや否や手で頬を叩く。両親はいないらしく、一人暮らし。以前「一緒に住もうか」と本気で聞いたら、平手で叩かれたあと、「ふざけないでください」と一蹴された。本気なのにと涙を浮かべたらツンとそっぽを向かれたことが或る。あれもこれもいい思い出だなと出されたお茶を啜りながらふと思う。
彼女もお茶を私に出したあと、隣にそっと座ってくる。先程、シャワーを浴びたのだろうか、シャンプーのいい香りが漂ってくる。その香りに浸っていると、彼女の軽蔑的な視線が浴びせられるのに気づき、私は咳払いをしてまたお茶を啜った。
「やましいこと考えてるんじゃないんですか?」
含んだものを外に吐き出す。「うわ……」という呟きが虚しく耳に響き渡る。けれど、彼女は今日、始めて笑った。少し安堵したが私は「酷いなあ」と少し怒った。すると、また俯き顔になる。
「どうしたの、妹子」
分かってるくせに表面上の私は優しくない。本当は、優しく抱き締めて慰める冪なのに。だが、妹子は真実を話し始めた。時折、鼻を啜る仕草や声が震えるのが分かる。
紳士的な男性だったら、妬くなんてことしないと思う。けれど、私と言う穢れた生き物は出会ったことの無い男に今、妬いてしまっている。
「振られて……しまったんです。大好きな人に」
私は何も言わず頷く。けれど、どきまぎした気持ちが胸の中に生じているのは確かだ。
「なんで……こんなに苦しいんでしょうか?」
上目遣いに私を見上げる。潤んだ瞳で見られたら、どんな男でも抱き締めてしまう。真っ白になった私も思わず抱き締めてしまっていた。しかし、彼女は抵抗しなかった。寧ろ受け止めてくれた。酷く癇癪を起こしているが背中を摩る。耳元で「大丈夫だよ」「泣かないで」と囁いた。すると、段々と彼女の雨は止んでいく。なんで、こんな可愛らしい子を振るのだろうか。可哀想過ぎる、なんでだろう。私なら受け止めて上げれるのに。
「本当にその人のこと大好きだったんだね」
「はい……」
「……私じゃ駄目かな?」
何を口走っているのだろうか。妹子の心を救えるのは、私じゃないかもしれないのに。しかし、妹子は拒絶しなかった。けれど、頷く事も無かった。ただ一言微笑を浮かべて「有難う御座います」それだけだ。
もうすぐで十時を告げるので、私は帰る事にした。朝までいるよ、と言うと大丈夫です、と即答された。硝子のような私の心は粉々に砕かれたがやはり帰る事にした。
「じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
私は一歩踏み出す。彼女は振り返り家に入ろうとする。それで、よかった。それがよかった。しかし、私は何を思ったか妹子を抱き締めていたのだ。
「やっぱり……駄目なの?」
「……ヘンタイ」
「それだけじゃ、判らない」
「莫迦じゃないですか?」
「愛してるよ」
「莫迦ですね。やっぱり」
いい、それでも、いい。
私が大莫迦ものだということも、わからずやだと言う事も十も承知だ。けれど、今夜は妹子を慰めてやりたいのだ。やましい気持ちなんて今は少しもない。ただ、先輩として連れ添っていたいのだ。
.
「太子」
「なあに?」
「好きな人、いますか」
嗚呼、そんなこと言わないでくれ。嘘を吐かなくてはならないじゃないか。
私は引き攣り笑いをして「いないよ」と答えた。そうですか、と答えた彼女は次の瞬間、眠りについてしまった。今すぐにでも口付けをしたい。やはり、私は人間と言う皮を着た狼なのではないかと思う。
「愛してるよ、妹子」
けれど、今日は約束した。ただ、慰めて頭を撫でるだけ。
新しい恋に出逢えるといいね。私は微笑を浮かべ、数秒後眠りについた。いい夢見れるかな。明日、また笑いあえるかな。ずっと一緒だよ、ずっとずっと……。
fin
「……夜遅くどうしたんですか」
不機嫌な声。やはり、来てはいけなかったんだろうか。しどろもどろに口を動かしていると妹子は徐に不機嫌な顔になっていく。妹子は溜め息をつき奥を指差してより一層不機嫌そうに呟いた。
「中、入ってください。セーターも着ないで寒いでしょう?」
不機嫌なのにこうして気遣ってくれる。恐らく、私のことはただの優しくてうざったい先輩だとしか思っていないだろう。現に妹子は、私の知らない男に先程告白して振られたのだ。握り締められている携帯で判る。
私は変な胸騒ぎがしたので此処に来た。今日決着つけますという頼りない笑顔が胸の中から離れなかったのだ。男の勘というのも当たるらしく、来てみたらやはり彼女は泣き喚いていたのだ。
上がると甘い妹子の匂いが漂ってくる。自分の頬が紅潮していくのが判る。だから、ふわふわな絨毯に座るや否や手で頬を叩く。両親はいないらしく、一人暮らし。以前「一緒に住もうか」と本気で聞いたら、平手で叩かれたあと、「ふざけないでください」と一蹴された。本気なのにと涙を浮かべたらツンとそっぽを向かれたことが或る。あれもこれもいい思い出だなと出されたお茶を啜りながらふと思う。
彼女もお茶を私に出したあと、隣にそっと座ってくる。先程、シャワーを浴びたのだろうか、シャンプーのいい香りが漂ってくる。その香りに浸っていると、彼女の軽蔑的な視線が浴びせられるのに気づき、私は咳払いをしてまたお茶を啜った。
「やましいこと考えてるんじゃないんですか?」
含んだものを外に吐き出す。「うわ……」という呟きが虚しく耳に響き渡る。けれど、彼女は今日、始めて笑った。少し安堵したが私は「酷いなあ」と少し怒った。すると、また俯き顔になる。
「どうしたの、妹子」
分かってるくせに表面上の私は優しくない。本当は、優しく抱き締めて慰める冪なのに。だが、妹子は真実を話し始めた。時折、鼻を啜る仕草や声が震えるのが分かる。
紳士的な男性だったら、妬くなんてことしないと思う。けれど、私と言う穢れた生き物は出会ったことの無い男に今、妬いてしまっている。
「振られて……しまったんです。大好きな人に」
私は何も言わず頷く。けれど、どきまぎした気持ちが胸の中に生じているのは確かだ。
「なんで……こんなに苦しいんでしょうか?」
上目遣いに私を見上げる。潤んだ瞳で見られたら、どんな男でも抱き締めてしまう。真っ白になった私も思わず抱き締めてしまっていた。しかし、彼女は抵抗しなかった。寧ろ受け止めてくれた。酷く癇癪を起こしているが背中を摩る。耳元で「大丈夫だよ」「泣かないで」と囁いた。すると、段々と彼女の雨は止んでいく。なんで、こんな可愛らしい子を振るのだろうか。可哀想過ぎる、なんでだろう。私なら受け止めて上げれるのに。
「本当にその人のこと大好きだったんだね」
「はい……」
「……私じゃ駄目かな?」
何を口走っているのだろうか。妹子の心を救えるのは、私じゃないかもしれないのに。しかし、妹子は拒絶しなかった。けれど、頷く事も無かった。ただ一言微笑を浮かべて「有難う御座います」それだけだ。
もうすぐで十時を告げるので、私は帰る事にした。朝までいるよ、と言うと大丈夫です、と即答された。硝子のような私の心は粉々に砕かれたがやはり帰る事にした。
「じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
私は一歩踏み出す。彼女は振り返り家に入ろうとする。それで、よかった。それがよかった。しかし、私は何を思ったか妹子を抱き締めていたのだ。
「やっぱり……駄目なの?」
「……ヘンタイ」
「それだけじゃ、判らない」
「莫迦じゃないですか?」
「愛してるよ」
「莫迦ですね。やっぱり」
いい、それでも、いい。
私が大莫迦ものだということも、わからずやだと言う事も十も承知だ。けれど、今夜は妹子を慰めてやりたいのだ。やましい気持ちなんて今は少しもない。ただ、先輩として連れ添っていたいのだ。
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「太子」
「なあに?」
「好きな人、いますか」
嗚呼、そんなこと言わないでくれ。嘘を吐かなくてはならないじゃないか。
私は引き攣り笑いをして「いないよ」と答えた。そうですか、と答えた彼女は次の瞬間、眠りについてしまった。今すぐにでも口付けをしたい。やはり、私は人間と言う皮を着た狼なのではないかと思う。
「愛してるよ、妹子」
けれど、今日は約束した。ただ、慰めて頭を撫でるだけ。
新しい恋に出逢えるといいね。私は微笑を浮かべ、数秒後眠りについた。いい夢見れるかな。明日、また笑いあえるかな。ずっと一緒だよ、ずっとずっと……。
fin