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姫様の御婚約
漸く、舞踏会が始ります。貴族達は全員、グラスに紅いワインを注ぎ笑い騒ぎ立てています。そんな光景を裏から見ている姫は長い長い溜め息をしておりました。豪奢で可愛らしいドレスを身に纏っている鏡に映っている自分を見ていますと、思わず気持ち悪くなってきてしまうのです。姫は無理に鏡の自分に笑いかけましたが、はたから見れば滑稽な人物にしか見えません。
姫は酷く落胆しました。そうして、瞳に涙を溜めます。目頭はいつのまにか赤くなっていて幾らごしごしと擦っても直らない気配さえします。手元にあるハンカチを手に取ったそのとき、ドアをノックする音がします。
「入りますよー」
能天気な声は后で御座います。温厚で能天気な声は后の性格や体格でさえも現しています。小柄で華奢で細身の体つきに無邪気な笑顔。たまに見せる真剣そのものの表情は艶やかで姫と瓜二つといっても過言ではないです。后は姫と比べれば楽な格好をしていますが、それはそれは派手なドレスを身に纏っています。
姫は心底驚かれました。有無も聞かずにいきなり入ってきたこともそうですし、それに自分よりも若々しいオーラを醸し出しているのです。姫の乙女心は少しだけ芽生えて、嫉妬心というものが少しだけ生じました。
「い、いきなり入ってこないで下さい……」
「あら。御免なさい。もう着替えているかと思って」
悪気がない笑顔。其れがより一層腹立たしくなる、と姫は随分ご立腹されています。頬を膨らませ「そうですか」と一言無愛想に呟きます。すると、后はそれには動じずゆっくりと姫の隣に座りました。まるでその姿はお人形さんのようです。
そうして、鏡を見ながらゆっくりと話しました。
「お父様が言っていたことは正しいですわ。貴女は数々の人間の時間を奪ってしまいました」
「承知です」
「だからこそ、皆々の希望に答えるべく、きちんと婚約しなくてはなりませんよ。最初は厭でも最終的には好きになっていきますわ」
姫はおずおずと頷き、そして質問をしました。
「お母様達も……?」
「あら、それは内緒です。あ、もう時間ですよ。ほら、早く」
と手を握り椅子に座っていた姫を無理矢理に立たせました。しかし、姫は抵抗はしませんでした。なんとも、后の言ってることは逆らえないからで御座います。
姫は廊下を通る際、王の姿を見ました。急いでいたので話しかける暇はなかったですが、先程の無礼を思い出し一礼をしました。王はまたあの温厚な笑みを浮かべ急ぎなさい、という合図を繰り出しました。姫は速度をもう一回あげて民衆が待つ広場へ猛ダッシュをしました。
例え、気に入らない相手でも姫は受け入れる覚悟は出来ていたのです。カーテンが開き、姫は王子と対面を致しました。
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そこから、新しい物語は始るのである。
(おわり)
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