掌_
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姫様の我儘
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一つの王宮から大きな溜め息が毀れました。とてもとても大きな王宮で街の人々は近寄れないほどの豪華さでありました。なりばかりでなく部屋一つ一つが煌き輝いているほどであります。そんな豪邸にこの国の未来を担うお姫様がいました。そのお姫様は美しく可憐で正に姫にぴったりな女性です。しかし、性格と言ったら恐ろしいほどに女性らしくないのであります。寧ろ、男性と言っても過言ではないほどであります。喧嘩っ早く短気で髪の毛はボブショートに近く、后や王にはきちんと敬語なのでありますが、自分の気に入らない人にはとてつもなく口が悪いのです。ですが、弱いもの虐めは全くといっていいほど行いません。若しも、執事やメイド内で誰かを虐げるとなったら説教は恐らく半日は掛かるでありましょう。しかし、姫は暴力は一切しないと言い切ります。
服装は豪華なドレスではなく、執事が着る様なものを身に纏います。しかし、パーティーなどは別です。仕方なく着ることが御座います。今までもそうでした。しかし、今回ばかりはそうはいかないようで朝からご機嫌斜めなのであります。
いつまで経ってもお姫様は自室から出ようとはしません。膨れっ面でベッドの上で胡坐なんて掻いています。執事達がドアをしつこくノックをしても応答はしません。ただ、胡坐を掻いて座っているだけです。其れを一時間続けていますとなんとお姫様は枕をドアに投げつけました。そうして、怒鳴り散らしたのであります。
「あたしに関わるなっ、舞踏会になんてぜってー出ないからなっ」
そうなのです。今日は姫の運命が左右される日。隣町の王子が来て強制的に婚約させられてしまうのであります。しかし、姫はまだ十五歳という若さがあります故、結婚する気はないと断言しておりました。今もそうで頑として執事達の言うことは聞きません。
見かねた大臣は王に説得するよう頼むことになさいました。しかし、王は「そうか」と相槌を打つだけでどうも動こうとは致しません。后も全く動じず「そうですか」と微笑を浮かべるだけであります。
そして、時刻はもう舞踏会に近づいているのでありました。姫はあれからずっとぬいぐるみを抱きかかえたままであります。必死に説得を行っていると、先程まで温厚な笑みを浮かべていた王がいきなし現れ、執事達をすり抜けてドアを蹴り飛ばしました。その光景に誰しもが驚きました。すらりと長く細い手足からは想像も出来ないほどであります。今日はじめて、姫の姿が露となりました。その姿は見事に姫らしくないお姿で王の怒りのボルテージは一気にあがったらしく、そのぬいぐるみをひったくりました。
「っ……なにをするのですか、お父様っ」
「なにをするのですかではないっ。お前は幾つの人間に心配させたと思っているんだ? 兎に角、舞踏会には出席すること。いいな」
姫は言葉を発しようと努力しましたが、思いつかないのでしょう。溜め息をつき「わかりました」と一言呟いた。王は決してその表情を緩めたりはしませんでした。眉間に皺を寄せ、ただ一言頷きその場を立ち去りました。崩壊されたドアは恐らく明日になったら修復されているでしょう。
暫しの沈黙が続き、執事達は一気に引き上げていきました。それを見届けると直ぐに姫は大粒の涙を流しました。王が怖かったのではありません。ただ、自分の不甲斐のなさとこれから無理矢理に婚約されることが厭なのでした。
(つづく)
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