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ファンタジックな夢を見よう
どん、と落ちる。その前の記憶は一切無い。ただ、私は暗い洞穴に落とされていた。軽くお尻が痛いがそんなこと知らない。
それよりも、なんで此処にいるのかを考える方が先決なので、推理をしてみる。どうヘマをしたらこんな光も無いところへ落ちてしまうのか。というか、何で落ちたときの記憶がないのか。それがなければ推理など出来るはずが無い。途方に暮れた。
そこら辺にどてっと座ろうとすると、いきなり光が現れる。スポットライト否、蛍光灯のようなものだった。しかも、蝿がたかっている始末でロマンティックの欠片さえない。泣きたくもなったが其れよりも驚いた。なんと昔、絵本で見た主人公の洋服そっくりなのだ。恐らく、その本の題名は不思議の国のアリス。なんと王道だろう。鋏を持っていたらフリフリのところをざくっと切ってしまおうかとも思った。こんな、フリフリな洋服は大嫌いだ。しかも、頭にはカチューシャ。鏡を見たら、恐らく割ってしまうほどの気持ち悪さ。乙女チックなんて私には似合わない。
昔から男勝りと言われてきた。体つきも父ににて少しだけ筋肉質。顔も確かに美形とは言われるが、切れ長な瞳と一重瞼ときりっとした表情が男らしさを醸し出している。女の子らしい男の子と良く勘違いされる。小学校の頃だろうか。髪を一つに束ねていたら似合わないと男子に嘲笑された。家に帰って大泣きした私は、その頃からボブショートに変更した。
酷く嫌な思い出が頭に溢れる。気づいたら、私は歩いていた。早くも遅くもない速さ。だけど、足取りは最悪。すると、笑い声が聞こえた。薄気味悪い、背筋が凍るような笑い声だ。私はぞっとしたがすぐに瞳をきりりとさせ、その気味悪い声がする方を向く。
「ふははは、惨めな姿だね。望」
「あ、アンタは……」
シルクハットを被った謎の男。でも、私がよく知っている男だ。名前を言おうとすると、急にぱっと明るくなり部屋が現れた。なんとも目がチカチカするような色合いだが、これで確定した。
「変人っ!」
叫ぶと、男はこけっというリアクションを取った。酷く長い兎の耳は変人としか他に言いようが無い。もしくはコスプレオタクとでも良いだろう。だがしかし、美形には違いなかった。端正な顔立ち。色白な肌。くっきりとした顔彫り。若しかしたら私よりも女の子らしいかもしれない。
「ま、いい。そんなことだろうと思ったよ」
と、呟きながら男は高い塀からさっと降りてきた。先程までは本棚の上に乗っかっていたというのに、おかしい。私がいる場所も変わってしまっている。気づくと男は私の顎を優しく掴んでいた。意外なことに私よりも背が高く足も長い。間近で見ると本当に可愛らしい顔立ちをしている。
すっと姿が消えた。彼は跪いて私の手に口付けをした。一気に顔が火照っていくのが分かる。そして、男は先程とは違った雰囲気でこう呟いた。
「望。僕は君のパートナーだ。この世界を攻略する。君の夢の案内役だ。たまに違う僕が出てくるかもしれない。先程の僕が、そうだ」
なんとも意味が分からない。けれど、紳士らしくなっているのは確かで、何処となく王子様とも見えてきた。さっきまでは普通の兎のような悪戯っ子だったのに。
「僕の名は、ムーン。君は……」
私と同じ目の高さになる。そして、くしゃっと笑みを浮かべると私の視界はそれで途絶えた。吃驚したので瞳を開ける。すると、目の前には男もといムーンの顔。なんと言っても唇の感触がこう告げていた。彼は私に口付けをしている、と。思考回路がショートした。寸前じゃなくてもうなっている。何にも考えられない。甘く蕩けそうだ。唇が離れると、彼は言葉を続けた。
「君はアリス。今日から君は、この夢の世界の有栖だよ。さあ、旅に出よう。君が此処に来るまでの記憶を思い出すまで、旅は終わらない」
シルクハットを取り、彼は手を差し伸べた。私はその手を叩く。
「勝手にキスする奴なんぞと一緒に行けるかってんだ!」
あかんべえをして、私はムーンを無視して先を歩く。目の前には腐敗している森が広がっている。別にいい。彼が私を助けて、私が彼を助ければどうにかなる道だろう。何となく、何となくで微かだけど彼が呟いた言葉が耳に届いた。
「不思議な有栖だ。でも、それが……」
声が消えた。吃驚して後ろを振り返ると、彼はいない。どうしたのかと思うと、右手に温もりが伝わってきた。隣を見ると憎たらしい笑みを浮かべているムーン。嗚呼、脳髄まで彼に侵されてしまいそうだ。私は耳まで全身を火照らせ、彼の手を引くように森へと入っていった。
不思議、フシギ。それは、フシギで不思議な貴方との旅の始まり。
fin
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喧騒
「レンの馬鹿っ!」
「リンが悪いんだろっ」
「……もう知らないっ」
彼女は離れていく。俺の元から、そうやっていつも、何時の日も……。
喧嘩の原因は本当に些細なことだった。リンがバカイトにベタベタして、俺がヤキモチ妬いて「尻軽女」と呟いた途端、リンは怒った。そんなことを思い出して、絶望に打ちひしがれていると、とんと肩を押された。少しばかり憤りを感じていたし驚いたので思わず牙を剥いてしまった。
「あぁ?」
「……あたしにそんなこと言っていいと思ってんの? レン君?」
最悪なことに、其れは酔いに酔い捲ったメイコ姉ちゃんだった。この人は時には破廉恥なこと。もしくは殴ってきたりする。酒の嫌な臭いが俺の鼻を劈く。手を振り上げられる。嗚呼、今日はビンタか。そう思って瞳を瞑ったとき、急にメイコ姉ちゃんは真剣な顔になってがっしりと俺の肩に腕を添えた。
「リンと喧嘩しちゃった?」
「……」
「其の顔は図星かあ。さっき、リン、泣いてどっか行っちゃったわよ」
「知らない。あいつがいなくても一人で何でも出来るし」
腕を振り払い、俺はとぼとぼと歩く。けれど、メイコ姉ちゃんは諦め切れないらしくついてくる。だから女って苦手なんだ。ミクもメイコ姉ちゃんも……リンも。何を考えてるのか分からない。行き成り、笑顔になったり泣きそうになったり怒ったり。気まぐれすぎる。カイトだって困ってるはずだ。そんな女に沢山沢山、愛されて。
「レンの気持ちも分かるけど、先ずは謝ってきな。リンはレンしか頭にないの」
「え……?」
「もー言わない。この、鈍感ブラザーズめっ」
しかし、メイコ姉ちゃんは耳元でささやいてくれた。「頑張れ」と。ふと後ろを振り返ると親指を立てウインクをしている。ふっと俺は笑うと、其の儘走り出した。
俺自身、自分が悪いとは思っていない。リンが全て悪いと思う。けど、俺だって男だし、彼女の片割れだし、それに……。あいつのこと、好きだし。怒ってる顔も泣いてる顔も確かに可愛いけど、笑顔の方が大好きだから。
だから、俺は謝らなきゃいけないんだ。
すすり泣く声が聞こえる。俺たちのフォルダから聞こえてくる。恐らく、ベッドの上で泣いているのだろう。居た堪れない気持ちになったが、優しく扉を叩いた。すると、鼻声の透き通った声が聞こえてくる。
「リンは泣いてるのであとにしてくださ……」
「開けろよ。てか、開けてもいい」
「どっか行ってよ! リンのこと、どーでもいいんでしょっ」
俺と言うことに気づいたリンは言葉に一つ一つ棘をくわえて突き放す。一瞬、怖気づきそうになったが、負けじとメイコ姉ちゃんの励ましの言葉を思い出し、言葉を続ける。
「どうでもよくない。俺、やっぱりお前がいなきゃ何も出来ないんだよ」
「……」
「だからさ、御免」
「何も分かってない!」
声が近づいてくる。若しかしたら、いきなり扉が開いてビンタされるかもしれないし、何か投げつけられるかもしれない。でも、引き戻すことは出来なかった。だって本当に俺は、彼女がいなければ何も出来ない役立たずだし、彼女に離れることが出来ない弱虫だ。
予想通りに扉が開く。腫れぼったい瞳をした不機嫌なリンの表情。絹糸のような金色の髪(って俺もだけど)も乱れている。これは絶対ビンタされる、そう思って目を瞑ったとき、唇にやわらかい感触を感じた。呆然と立ち尽くしているとリンが急に抱きついてきた。
「好きだよ、って言ってほしかっただけなの!」
「リン……好きだよ」
俺も抱きしめ返す。こんなに泣きじゃくってるリンは久しぶりだ。前のマスターに捨てられたとき、二人でわんわん泣いたような気がする。それにしても、俺は精神が強くなったものだ。多分、リンがこうして隣にいてくれるからだけど。
そして、俺の方からキスを交わす。今度は一瞬だけじゃなくてゆっくりと時間を掛けて。
.
「そいえばさ、リンちゃんとレン君って双子だよね」
「そうだね。僕とミクは兄妹だけど」
「それは言ってないけど……。あの二人ってどこまで行ってるんだろう?」
「……キス、とか」
「……お兄ちゃん……そんなわけ無いじゃーん」
「そ、そうだよねー。は、はははは」
二人ののんきな笑い声が響く。けれども、カイトは強ち間違えではないと本能で思っていたに違いない。
其の頃のレンは、くしゃみをしていた。
「あー、風邪引いたのか……。これからリンと一緒にレコーディングだっていうのに。ま、いつも鼻声って言われてるし。平気だろ」
と言いつつも、体を布団で温めていたとさ。
fin
「リンが悪いんだろっ」
「……もう知らないっ」
彼女は離れていく。俺の元から、そうやっていつも、何時の日も……。
喧嘩の原因は本当に些細なことだった。リンがバカイトにベタベタして、俺がヤキモチ妬いて「尻軽女」と呟いた途端、リンは怒った。そんなことを思い出して、絶望に打ちひしがれていると、とんと肩を押された。少しばかり憤りを感じていたし驚いたので思わず牙を剥いてしまった。
「あぁ?」
「……あたしにそんなこと言っていいと思ってんの? レン君?」
最悪なことに、其れは酔いに酔い捲ったメイコ姉ちゃんだった。この人は時には破廉恥なこと。もしくは殴ってきたりする。酒の嫌な臭いが俺の鼻を劈く。手を振り上げられる。嗚呼、今日はビンタか。そう思って瞳を瞑ったとき、急にメイコ姉ちゃんは真剣な顔になってがっしりと俺の肩に腕を添えた。
「リンと喧嘩しちゃった?」
「……」
「其の顔は図星かあ。さっき、リン、泣いてどっか行っちゃったわよ」
「知らない。あいつがいなくても一人で何でも出来るし」
腕を振り払い、俺はとぼとぼと歩く。けれど、メイコ姉ちゃんは諦め切れないらしくついてくる。だから女って苦手なんだ。ミクもメイコ姉ちゃんも……リンも。何を考えてるのか分からない。行き成り、笑顔になったり泣きそうになったり怒ったり。気まぐれすぎる。カイトだって困ってるはずだ。そんな女に沢山沢山、愛されて。
「レンの気持ちも分かるけど、先ずは謝ってきな。リンはレンしか頭にないの」
「え……?」
「もー言わない。この、鈍感ブラザーズめっ」
しかし、メイコ姉ちゃんは耳元でささやいてくれた。「頑張れ」と。ふと後ろを振り返ると親指を立てウインクをしている。ふっと俺は笑うと、其の儘走り出した。
俺自身、自分が悪いとは思っていない。リンが全て悪いと思う。けど、俺だって男だし、彼女の片割れだし、それに……。あいつのこと、好きだし。怒ってる顔も泣いてる顔も確かに可愛いけど、笑顔の方が大好きだから。
だから、俺は謝らなきゃいけないんだ。
すすり泣く声が聞こえる。俺たちのフォルダから聞こえてくる。恐らく、ベッドの上で泣いているのだろう。居た堪れない気持ちになったが、優しく扉を叩いた。すると、鼻声の透き通った声が聞こえてくる。
「リンは泣いてるのであとにしてくださ……」
「開けろよ。てか、開けてもいい」
「どっか行ってよ! リンのこと、どーでもいいんでしょっ」
俺と言うことに気づいたリンは言葉に一つ一つ棘をくわえて突き放す。一瞬、怖気づきそうになったが、負けじとメイコ姉ちゃんの励ましの言葉を思い出し、言葉を続ける。
「どうでもよくない。俺、やっぱりお前がいなきゃ何も出来ないんだよ」
「……」
「だからさ、御免」
「何も分かってない!」
声が近づいてくる。若しかしたら、いきなり扉が開いてビンタされるかもしれないし、何か投げつけられるかもしれない。でも、引き戻すことは出来なかった。だって本当に俺は、彼女がいなければ何も出来ない役立たずだし、彼女に離れることが出来ない弱虫だ。
予想通りに扉が開く。腫れぼったい瞳をした不機嫌なリンの表情。絹糸のような金色の髪(って俺もだけど)も乱れている。これは絶対ビンタされる、そう思って目を瞑ったとき、唇にやわらかい感触を感じた。呆然と立ち尽くしているとリンが急に抱きついてきた。
「好きだよ、って言ってほしかっただけなの!」
「リン……好きだよ」
俺も抱きしめ返す。こんなに泣きじゃくってるリンは久しぶりだ。前のマスターに捨てられたとき、二人でわんわん泣いたような気がする。それにしても、俺は精神が強くなったものだ。多分、リンがこうして隣にいてくれるからだけど。
そして、俺の方からキスを交わす。今度は一瞬だけじゃなくてゆっくりと時間を掛けて。
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「そいえばさ、リンちゃんとレン君って双子だよね」
「そうだね。僕とミクは兄妹だけど」
「それは言ってないけど……。あの二人ってどこまで行ってるんだろう?」
「……キス、とか」
「……お兄ちゃん……そんなわけ無いじゃーん」
「そ、そうだよねー。は、はははは」
二人ののんきな笑い声が響く。けれども、カイトは強ち間違えではないと本能で思っていたに違いない。
其の頃のレンは、くしゃみをしていた。
「あー、風邪引いたのか……。これからリンと一緒にレコーディングだっていうのに。ま、いつも鼻声って言われてるし。平気だろ」
と言いつつも、体を布団で温めていたとさ。
fin
運命(仮)第二章
僕は台所へと向かう。最悪な思い出を思い出していると、心もブルーになっていく。だけど、あの人の笑顔を見れるならそれだけでもいい気がする。いつの間にか嵌っているのだ。僕は彼女に、そして、彼女は僕に……。
やはり太子と言ったところでカレーの具材が全て揃っている。少しだけ感動した僕は、包丁を手にする。木の板を下敷きにし、色々と切っていく。先ずは野菜を煮込み、肉に火を通す。そして、スパイスを色々と組み合わせて、凡そ一時間程度で完成した。僕の額には汗が滲み出ている。
ふうっと一息つき、庭でぐーたら四葉のクローバーを眺め座っている太子の元へと向かう。
「太子、カレー出来ましたよ」
やはり縁側には太子の姿があった。其の丸まった背中は一時間前とは全く変わっていない。彼女は一気に後ろを振り返り、満面の笑みを浮かべた。一応、一人前にしておいた。太子には悪いがカレーはあまり好きではない。少しだけ臭いし辛いし何だか口にあわない。
「いただきまーすっ」
手を合わせたと思ったら直ぐに口にいれている。其れは飲み込んでいるに等しく、水を用意するのを忘れた僕は台所へと向かった。喉にご飯を詰まらせたら非常に面倒だからだ。それに朝廷の役人がみんな、僕のせいだと咎めるに違いない。それだけだったらいいのだが、太子をよく思っていない人々の歓声を聞くと、自分の身が持たないと思う。彼女自身のため、僕自身のために、太子を守らなくてはならない。
僕は大急ぎで水を持っていく。鱈腹食べた彼女はお腹を膨らませ、パンパンになったお腹を撫でている。全く太子らしい。
「水です」
「遅いぞ、妹子っ! ま、有難うな」
と、また笑みを浮かべてコップを取る。すると、手が重なり合わさる。太子は何も感じない様子で其の儘さっと僕の手から奪う。僕はなんて乙女なんだろう。顔が赤く染まっていく。太子に気づかれないようにそっぽを向くことにした。すると、黒い影が草葉から草葉へ移り変わったのが見える。嫌な事態が発生したのかもしれない。
「どーしたの、妹子。眉間に皺寄せて」
余程、怖い顔をしているのだろう。彼女は心配そうに上目遣いで僕を見てくる。少しだけ胸が高鳴ったが、そんなこと気にしている暇は無い。「何でもないです」と微笑む。すると、また彼女の悪い癖。というか、僕が嫌いな言葉を浴びせてきた。
「かんわいーっ」
男に可愛いと言うのは失礼なこと、と教えているのに全く彼女は分かってくれない。けれども、突っ込む猶予はなさそうだった。草葉に隠れていた黒い影が、密かに太子に近づいていっている。姿は見えないが、耳を澄ましたら足音が微かだが聞こえる。剣もない状態で如何やって守るというのだろう。しかし、僕は太子を守らなければならない。なので、太子に背中を向け、黒い影に腹を見せた。例え、剣でどこかを刺されたって死ぬもんか。けれど、怖くて足が竦む。黒い影らしきものは動きを止めた。すると、姿が見える。とても小柄だが、顔は覆面で覆い隠されて見えないし、服装も真っ黒で忍者のようだ。僕は怖気ずに精一杯睨みつける。
「何奴っ!」
「……」
構えもせずそこに突っ立っているだけ。まるで壊れた人形のようで、心が無いようだ。恐らく覆面の下には無表情が潜んでいるだろう。人間の姿をしている化け物に違いない。と考えると、やはり足が竦む。毎日鍛えているからって凶器を持ち合わしているかもしれない不審な人物と争えるわけない。出来るとしたら、命を捨てても太子を守ることだけ。今、太子がどんな表情をしているのか分からない。卒倒しているかもしれないし、呆然としているかもしれない。でも、命だけは僕の力でお守りしなくては。
「去れ、此処はお主が来る所ではない」
「……」
「早くしろ! さもなくば、お主の首を取って……」
「いし……殺……」
男らしき低い声が微かだが聞こえてくる。しかも、剣まできっちりと構え始めた。これは本当に大変なことになるかもしれない。
「太子暗殺」
はっきりとそう聞こえた。すると、僕は肩に刀を刺されていた。忍者らしき者の顔が微かだが見えたような気がする。しかし、もうこの世にいない僕には如何でもいいことだ。そうだ、最後に聞こえたのは太子の声だった。
「妹子おおおおおおおおおおっ」
.
何故か、体は軽かった。赤黒いその世界はとても恐ろしいものでまるで地獄を連想させた。音が響いていないし、人の気配もない。漠然とした記憶が無く、僕が「小野妹子」ということしか思い出せない。だけど、真っ直ぐに進むしかない。怖かったし今すぐにでも夢だと思いたかったがそうにもいかない。何かを思い出して、其れで元の世界に戻らなくては。ただ、そう思った。
僕が近づくと閉じられていた扉は開かれた。今まで光のような明るいものは無かった。確かに、暗くも無かったけれどこう視界が広がるような光は存在しなかった。なれない光に目がやられたが、直ぐに視力は元に戻る。すると、奥に人の姿が合った。黒い服を着て、足組をして頬杖をついている男と、頭に二本の角を生やしてすまし顔をしている男。見詰め合う時間が続く。如何やって言葉にしていいか分からない、其のとき、堂々と座っている男が高らかに声を上げた。
「お前は天国だ!」
「……え?」
若しかして、これが地獄の番人、「閻魔大王」なのか。嘘を吐くものの舌を切り、恐ろしい形相をしている閻魔大王がこんなにほそっこくて人間に近くて優しいまなざしをしているのか。疑問が次々と頭を掠める。すると、隣にいる男はふうっと深いため息をつき、爪を閻魔大王らしき者に刺した。
「大王。今度は殺りますよ」
「す、すみません……ちょっとふざけすぎました」
確かこの遣り取りは何処かで見たような気がする。懐かしい記憶か、其れともただの気まぐれか。なんにしても良かった。僕は此処から抜け出したい、元に戻りたいのだ。
「あの、此処は何処ですか?」
大王に質問したつもりだが、横に立っている……秘書であろう者が、僕の質問に無表情で答える。
「此処は冥界です。貴方は死にました」
「お、鬼男くん……なんで私の台詞をそう易々と奪うかなあ?」
「貴方が説明することはもっと他にあるので」
「あ、あのぉ」
「すまんすまん」と困ったように微笑む大王。隣にいる、おにおくんはツンと澄ましている。何だか、台詞とか色々決められているようだ。でも、一番突っかかっているのは、此処が冥界で僕がもう亡くなっているってこと。だから、先程、大王は胸を張って堂々と「天国」と判定したのだろうか。
「色々と疑問は持ち合わせているようだけど、時間が無い。簡単に説明しよう。君は死んだ。でも、生き返ることは出来る」
「何でっていう顔……してるな。其れは私が閻魔大王で、君の元に戻りたいっていう気持ちが強いからだよ」
その優しい言葉を聞くと、何故か涙がこみ上げてきた。拭いてると、結界のような物が張られる。痛みが生じたが、徐々に心地よくなってきた。次第に記憶が鮮明に思い出される。そして、僕の存在が此処にはなくなる。つまり、元の世界に戻れる……というよりも生き返れる。
「それじゃあ、厩戸皇子の命を救ってまた此処に来てくれ。助っ人は数々用意してる。朝廷は直に焼かれる……が、生き延びられるだろう」
大王が言ってることが聞こえなくなってきた。
「大丈夫。厩戸とお前は死なない。このままのストーリーで行くとな。じゃあ」
すっと、僕は消えた。
.
「大王……。嘘吐いていいんですか」
「嘘は吐いていいときと吐いちゃいけないときがあるんだ。今は吐いていいときだよ」
「……」
「そんな悲しい顔、しないでよ。俺はもう、過ちは繰り返さないよ。だから、彼を此処に呼び寄せたんだ」
「……」
「俺のシナリオでいくと、彼はもう一度、死ぬけどね」
next
やはり太子と言ったところでカレーの具材が全て揃っている。少しだけ感動した僕は、包丁を手にする。木の板を下敷きにし、色々と切っていく。先ずは野菜を煮込み、肉に火を通す。そして、スパイスを色々と組み合わせて、凡そ一時間程度で完成した。僕の額には汗が滲み出ている。
ふうっと一息つき、庭でぐーたら四葉のクローバーを眺め座っている太子の元へと向かう。
「太子、カレー出来ましたよ」
やはり縁側には太子の姿があった。其の丸まった背中は一時間前とは全く変わっていない。彼女は一気に後ろを振り返り、満面の笑みを浮かべた。一応、一人前にしておいた。太子には悪いがカレーはあまり好きではない。少しだけ臭いし辛いし何だか口にあわない。
「いただきまーすっ」
手を合わせたと思ったら直ぐに口にいれている。其れは飲み込んでいるに等しく、水を用意するのを忘れた僕は台所へと向かった。喉にご飯を詰まらせたら非常に面倒だからだ。それに朝廷の役人がみんな、僕のせいだと咎めるに違いない。それだけだったらいいのだが、太子をよく思っていない人々の歓声を聞くと、自分の身が持たないと思う。彼女自身のため、僕自身のために、太子を守らなくてはならない。
僕は大急ぎで水を持っていく。鱈腹食べた彼女はお腹を膨らませ、パンパンになったお腹を撫でている。全く太子らしい。
「水です」
「遅いぞ、妹子っ! ま、有難うな」
と、また笑みを浮かべてコップを取る。すると、手が重なり合わさる。太子は何も感じない様子で其の儘さっと僕の手から奪う。僕はなんて乙女なんだろう。顔が赤く染まっていく。太子に気づかれないようにそっぽを向くことにした。すると、黒い影が草葉から草葉へ移り変わったのが見える。嫌な事態が発生したのかもしれない。
「どーしたの、妹子。眉間に皺寄せて」
余程、怖い顔をしているのだろう。彼女は心配そうに上目遣いで僕を見てくる。少しだけ胸が高鳴ったが、そんなこと気にしている暇は無い。「何でもないです」と微笑む。すると、また彼女の悪い癖。というか、僕が嫌いな言葉を浴びせてきた。
「かんわいーっ」
男に可愛いと言うのは失礼なこと、と教えているのに全く彼女は分かってくれない。けれども、突っ込む猶予はなさそうだった。草葉に隠れていた黒い影が、密かに太子に近づいていっている。姿は見えないが、耳を澄ましたら足音が微かだが聞こえる。剣もない状態で如何やって守るというのだろう。しかし、僕は太子を守らなければならない。なので、太子に背中を向け、黒い影に腹を見せた。例え、剣でどこかを刺されたって死ぬもんか。けれど、怖くて足が竦む。黒い影らしきものは動きを止めた。すると、姿が見える。とても小柄だが、顔は覆面で覆い隠されて見えないし、服装も真っ黒で忍者のようだ。僕は怖気ずに精一杯睨みつける。
「何奴っ!」
「……」
構えもせずそこに突っ立っているだけ。まるで壊れた人形のようで、心が無いようだ。恐らく覆面の下には無表情が潜んでいるだろう。人間の姿をしている化け物に違いない。と考えると、やはり足が竦む。毎日鍛えているからって凶器を持ち合わしているかもしれない不審な人物と争えるわけない。出来るとしたら、命を捨てても太子を守ることだけ。今、太子がどんな表情をしているのか分からない。卒倒しているかもしれないし、呆然としているかもしれない。でも、命だけは僕の力でお守りしなくては。
「去れ、此処はお主が来る所ではない」
「……」
「早くしろ! さもなくば、お主の首を取って……」
「いし……殺……」
男らしき低い声が微かだが聞こえてくる。しかも、剣まできっちりと構え始めた。これは本当に大変なことになるかもしれない。
「太子暗殺」
はっきりとそう聞こえた。すると、僕は肩に刀を刺されていた。忍者らしき者の顔が微かだが見えたような気がする。しかし、もうこの世にいない僕には如何でもいいことだ。そうだ、最後に聞こえたのは太子の声だった。
「妹子おおおおおおおおおおっ」
.
何故か、体は軽かった。赤黒いその世界はとても恐ろしいものでまるで地獄を連想させた。音が響いていないし、人の気配もない。漠然とした記憶が無く、僕が「小野妹子」ということしか思い出せない。だけど、真っ直ぐに進むしかない。怖かったし今すぐにでも夢だと思いたかったがそうにもいかない。何かを思い出して、其れで元の世界に戻らなくては。ただ、そう思った。
僕が近づくと閉じられていた扉は開かれた。今まで光のような明るいものは無かった。確かに、暗くも無かったけれどこう視界が広がるような光は存在しなかった。なれない光に目がやられたが、直ぐに視力は元に戻る。すると、奥に人の姿が合った。黒い服を着て、足組をして頬杖をついている男と、頭に二本の角を生やしてすまし顔をしている男。見詰め合う時間が続く。如何やって言葉にしていいか分からない、其のとき、堂々と座っている男が高らかに声を上げた。
「お前は天国だ!」
「……え?」
若しかして、これが地獄の番人、「閻魔大王」なのか。嘘を吐くものの舌を切り、恐ろしい形相をしている閻魔大王がこんなにほそっこくて人間に近くて優しいまなざしをしているのか。疑問が次々と頭を掠める。すると、隣にいる男はふうっと深いため息をつき、爪を閻魔大王らしき者に刺した。
「大王。今度は殺りますよ」
「す、すみません……ちょっとふざけすぎました」
確かこの遣り取りは何処かで見たような気がする。懐かしい記憶か、其れともただの気まぐれか。なんにしても良かった。僕は此処から抜け出したい、元に戻りたいのだ。
「あの、此処は何処ですか?」
大王に質問したつもりだが、横に立っている……秘書であろう者が、僕の質問に無表情で答える。
「此処は冥界です。貴方は死にました」
「お、鬼男くん……なんで私の台詞をそう易々と奪うかなあ?」
「貴方が説明することはもっと他にあるので」
「あ、あのぉ」
「すまんすまん」と困ったように微笑む大王。隣にいる、おにおくんはツンと澄ましている。何だか、台詞とか色々決められているようだ。でも、一番突っかかっているのは、此処が冥界で僕がもう亡くなっているってこと。だから、先程、大王は胸を張って堂々と「天国」と判定したのだろうか。
「色々と疑問は持ち合わせているようだけど、時間が無い。簡単に説明しよう。君は死んだ。でも、生き返ることは出来る」
「何でっていう顔……してるな。其れは私が閻魔大王で、君の元に戻りたいっていう気持ちが強いからだよ」
その優しい言葉を聞くと、何故か涙がこみ上げてきた。拭いてると、結界のような物が張られる。痛みが生じたが、徐々に心地よくなってきた。次第に記憶が鮮明に思い出される。そして、僕の存在が此処にはなくなる。つまり、元の世界に戻れる……というよりも生き返れる。
「それじゃあ、厩戸皇子の命を救ってまた此処に来てくれ。助っ人は数々用意してる。朝廷は直に焼かれる……が、生き延びられるだろう」
大王が言ってることが聞こえなくなってきた。
「大丈夫。厩戸とお前は死なない。このままのストーリーで行くとな。じゃあ」
すっと、僕は消えた。
.
「大王……。嘘吐いていいんですか」
「嘘は吐いていいときと吐いちゃいけないときがあるんだ。今は吐いていいときだよ」
「……」
「そんな悲しい顔、しないでよ。俺はもう、過ちは繰り返さないよ。だから、彼を此処に呼び寄せたんだ」
「……」
「俺のシナリオでいくと、彼はもう一度、死ぬけどね」
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赤い花束を君に
「花、欲しいっ」
屈託ない笑みを浮かべ、窓の外を見ている少女。其れは確かに、隣にいる青年に向けられていた。少女は灰色の髪に細い腕に白い肌。まるで病弱な少女のようだが、着ている衣服はノースリーズのワンピース一着という健康的な格好をしている。青年は対照的で重たい鎧を纏っており、青い髪をしている。少女はベッドで寝そべっており、看病をしているのか青年は林檎を剥いていた。突然のことなので、青年は顔を顰めた。
「どんなのだ」
「ヴェールみたいな、かっこいくて、大きな花」
「格好いい、だろ」
とヴェールと呼ばれた青年は小突いたが、内心では凄く照れていた。少女は微かでも笑い声は上げないが、満面の笑みを浮かべている。しかも、「大きい大きい」と言って未だ手を大きく広げている。其の姿はとても凛々しく愛らしいものだ。
少女は、白翼と呼ばれる種族だ。大昔からこの存在はあり、箱庭世界として白翼がいる世界は区切られている。白翼が故意に対なる存在の黒翼という種族に殺されてしまうと、世界の破滅に晒されてしまう。人々は、白翼と黒翼の護衛で戦争をしている。しかし、まだ黒翼は襲来してこないので誰しも平和ボケをしてしまっていた。
ヴェールは白翼の護衛部隊で父は隊長という身分だ。彼もまた、将来は隊長格になるかもしれないと期待をされている。しかし、ヴェールはそんなお偉い身分は目指していない。今、目の前にいる彼女を救えたらそれだけで彼の幸せなのだ。そして、こうして笑っていられることが。
「欲しい」
先程まで笑っていた彼女も、本気になったのか上目遣いでヴェールを見上げる。居た堪れなくなった彼は「しょうがないな」と呟きながら、急に部屋を飛び出した。長い廊下に厭になるような螺旋階段。ヴェールは庭に薔薇が咲いているのをこの間発見した。少女と共に見たので鮮明に記憶が残っている。果たして、彼女が覚えているかどうかは不安なのだが。白翼は年齢を重ねる毎に言語も何もかも総て不十分になってしまう。脳が縮小されてしまうのだ。黒翼部隊が襲い掛かってくる前に、白翼が病気によって亡くなってしまい、世界は秩序を護ってきた。だからこそ、こうして少女とヴェールは出遭えたのだ。
やっとこさ庭に着くと花畑へ足を運ばせる。すると、予想通り、一面は赤く染まっていた。棘に気をつけながら、ヴェールは取っていく。王も少女のためとなると頭があがらなくなるのだ。この花畑は王が所有しているので、説得すればなんとかなる、ということをヴェールは知ってる。花束が出来上がった。見るだけでうっとりとするその花束は、まるで少女を連想させた。ヴェールはまた走る。
「ルノワールっ!」
「ヴェール……」
とても悲しげな瞳を持つ、少女。どうしたのかと思いヴェールは歩み寄ると、すぐに彼女は笑みを浮かべた。その花束に気づいたのだろう。先程までの泣きそうな表情は消えてしまった。
「綺麗、きれいっ」
「だろ?」
「ヴェールは汚い……」
「うわっ。御免、ちょっと泥落としてくる」
ぺこりと少し頭を下げ、部屋を出ようとするとルノワールに袖をつかまれる。何かと思い振り向くと、また彼女は悲しげな表情を浮かべていた。
「何処にも、いかない」
「……ああ。御免な」
頭を優しく撫でると、またルノワールは笑みを浮かべて、花束を見てうっとりとする。こうして見ていると平和はいつまでも続くようで、このときは永遠だとヴェールは思っていた。
しかし、崩壊はすぐそこに、来ていたのだ。
fin
レンデレラ
「え、私が母親役? ちょ、全然あってないじゃない、私はもっと可憐で……」
「めーちゃんが一番ハマり役だと思うy「だまらっしゃいっ!」
「あー、お兄ちゃん、私魔法使い……って、きゃーっ!」
「ねえ、レンレン、何役だったあ?」
「……お前は」
「王子様役ー。シンデレラ役って誰なんだろー」
「……俺」
「え、レンが、シンデレラ? ちょ、笑えるっ」
「う、うるさいっ! 俺だってやりたくないんだからなっ。つか、はずかし……」
「拙者が一番……ぐすっ」
*そんなこんなで始まります。
と、ここで注意。
ボカロで演劇です。なので、かるーく女装表現ありなので注意してください。
レンリン前提のリンレンです。大臣? アカイトにでもまかせとk(氏ね
それでは、本当に始まりです。
女装が苦手、ボカロが嫌、キャラ崩壊しまくり(上記の通り)、シンデレラパロなので、ご了承ください。
昔々、とあるお屋敷に可愛らしい女の子が住んでいました。名はレンデレラといいます。母が一人、姉が二人という家族構成です。幸せに暮らしている……感じでしたが、なんともこの三人が意地悪で、いつもお屋敷の掃除を命じられていました。何故かと申しますと、レンデレラはどの真珠よりも美しかったからで御座います。そして、今日も母君に掃除を命じられました。そう、大変広い姉妹達の部屋と母の部屋です。
「レンデレラ! 今日はここを掃除しなさいっ」
断れないレンデレラは、引きつり笑いをしながら「ええ。わかりました、お母様」とわざとらしく言い放ちました。灰色の質素なワンピースに、白いエプロン。まるで其れはメイドのような風貌です。金色の絹糸のような髪も一つに束ねており、清潔感溢れております。黙っていれば可愛いのですが、性格は百八十度もひん曲がっておりますので、いつかあの三人に仕返ししてやろうと目論んでいます。
仕方が無いのでしょうがなくたらたらと掃除をしていると急に赤い髪の母がずかずかと入り込んできて、さっと近くの棚を指でふき取りました。埃ひとつ残っていないのですが、気に食わないのか母は彼女を怒鳴り散らしました。
「なに、この手抜きさっ。ていうか、なんでそんなふてくされてるのよ、ええ?」
「あー、すみません、お母様。すぐに掃除しなおしますわ。ほっほっほ」
適当な棒読み加減に隣でひっそりと佇んでいる、奇妙な化粧をしている青い髪をした体格の良い姉は少しだけ噴出してしまいました。すると、母の怒りの矛先はレンデレラはなく、その姉に向きました。
「ちょっと、カイト……じゃなくて、カイコっ! 何をくすくすと笑っているの?」
その迫力満点の顔にカイト……じゃなくてカイコは身を震わせ、「何でもありません」と震えながら言いました。さすが、血の繋がった親子です。母はそこで見逃す、はずなのですが、そんなことこんな暴力的な母に出来るわけがありません。先程よりも怒鳴り散らし理不尽なことを言い始めます。いつもの病気みたいなものなので、レンデレラは呆然としている紫色の髪を一つに束ねている姉に話しかけます。
「毎日大変ですね。お姉さま方」
「そうで……じゃなくて、そうですわ。ほっほっほ」
慣れない引きつり笑いに、がくこはレンデレラよりも棒読みになってしまいます。くすくすとレンデレラが笑っているとついに母は正気に戻ったらしく、また怒りの矛先はレンデレラに向きました。カイコは勿論、半死に状態で結構ヤバめな状態というのは気にしない方向で。
「今日はお城で舞踏会なの。今から行くから、お留守番宜しく頼むわよ、レンデレラっ! さあ、行くわよ」
カイコは引きずられながら、がくこはレンデレラのほうを見ながらとぼとぼと。しかし、彼女は気にしていない様子で静かに手を振りました。扉が重くがしゃん、と閉じられるとレンデレラは早速箒を両手に頑張ります。
舞踏会、といったら王子様の妃を決める大事な儀式ともなります。レンデレラはなぜか、その王子様の顔を知っておりました。向日葵のような無邪気な笑顔、無垢で何も知らないようなぱっちりとした瞳。誰にも負けないような魅力を持っている男の子。思い出すのは、王子様の笑顔ばかりです。レンデレラはいつの間にか、窓の方に身を寄せていました。聳え立つ白いお城はまるで王子様を連想させるような、元気でパワフルな雰囲気を醸し出しています。
「はあ……王子とやらに会いたい……」
「そ、その願いしかと聞きましたよ、レン君……じゃなくて、レンデレラっ」
おどおどした震えた声。恐らく、緊張しているのでしょう。現れた魔法使いは不気味と言うよりも可愛らしく、なぜか頬を真っ赤に染め上げていました。しかも、杖は葱という不思議仕様で、レンデレラは少しだけ不安を覚えました。魔法使いミクというアニメが作られそうな勢いです。
「えと、貴方は綺麗になって、行きたいのですね。舞踏会に」
「声が震えてますよ、魔法使いサン」
「す、すみませ……。は、早く帰りたいので、鼠とカボチャとその他もろもろ持ってきてください、お願いします……」
「はいはい」
今にも泣きそうな魔法使いの言うとおりにしました。言われたとおりに、色々な野菜や動物を手づかみで持ってきました。中には汚らしいものもあり、魔法使いはあたふたしながら「き、汚いよっ」と言います。しかし、レンデレラは落ち着いた様子で「大丈夫ですよ、てか、あんたがもってこいって言っただろ」と途中から汚い言葉遣いになっています。また、泣きそうになった魔法使いにレンデレラはもう一度優しく接しました。
「それじゃ、魔法お願い致します」
「は、はい。泣いたらダメ、泣いたらお兄ちゃんに笑われちゃう。うん、大丈夫っ。それでは、びびでばびでぶーっ」
綺麗なハーモニーを奏でながら呪文をかけていきます。流石、歌姫といったところでしょう。レンデレラは身も心も清らかになっていくような感じがしました。気づいたら、外にでており衣装は豪華なドレスになっていました。カボチャの馬車も、何もかも全て忠実に再現されています。成功、その二文字が魔法使いの頭に過ぎりました。
「よかった……それでは、楽しい一夜を」
「ミク……意味を知っていってるのかああああっ!」
ため息をついた途端、馬車は急激に走り出しました。魔法使いの綺麗な叫び声が夜の闇に木霊します。
「十二時になったら魔法解けるんで、それまでに帰ってきてくださいねーっ。それで、硝子の靴を落とすの忘れずに」
消えたかと思うと、お城はもう目の前で急にカボチャの馬車は止まりました。今にも戻しそうな勢いで髪のセットも少しだけ乱れましたが、それ程変わっていないのでレンデレラは着慣れていないドレスの裾を持ちながら階段を一段一段、あがっていきます。純白の階段をあがっていく度、心拍数もあがっていきます。運動をしているのもありますが、全ては王子様の美貌のせい、らしいです。
.
「あー、早く始まらないの? ね、大臣、大臣。暇だよ、暇」
「もう少しです……あ、集まったらしいですね。今夜こそ決めてくださいよ、妃を」
「判ってるって。どーんと任しておいてよ」
「心配だ……」
「ああ? なんか言った?」
「いえ、何でも。それでは、王子のおなーりいいいいい」
.
周りの視線は一気にレンデレラに向けられています。王子様が現れた途端、レンデレラが姿を現したのもありますが、一番がその美貌です。息を荒げ、扉を開けたレンデレラに王子様は釘つげになってしまいました。レンデレラは、恐る恐る顔をあげました。すると、王子様と視線がばっちりとあいました。頬が高潮していくのがわかります。視線をはずしきょろきょろと周りを見渡すと、母と姉の姿があります。母は見蕩れているようで、フォークを落としています。姉二人さえも、レンデレラとは気づいていないでしょう。そして、周りにいる者達も。
王子様はつかつかと引き寄せられるかのように、挙動不審なレンデレラに近づいていきます。レンデレラが気づいたのは、王子様が跪いて掌に口付けをしている最中でした。
「美しい……。私と一緒に踊ってくれませんか?」
自分と同じような背丈に、体格。顔もまるで重ね合わせたよう。しかし、レンデレラは今までに見せたことの無いような笑顔で、「はい」と呟きました。すると、軽快なワルツが流れ出しました。何処かで聞いたようなメロディーに、レンデレラは歌が頭の中に流れます。周りで見蕩れていた者達も、次々と踊り始めます。嫉妬をしてハンカチを加えている者も少人数になってきた頃のことです。
「お名前を教えて頂けませんか?」
王子様の突然の問いにレンデレラは困惑しました。口を開こうとすると、十一時三十分の鐘が王宮全体に流れます。綺麗なメロディーに酔いしれていましたが、一分経過したあと、レンデレラははっとしました。
--十二時になったら魔法解けるんで、それまでに帰ってきてくださいねーっ。それで、硝子の靴を落とすの忘れずに
無責任な魔法使いの笑顔と声が脳内でリピートされます。うげという悲鳴をあげて、レンデレラは即座に出口へと走り出しました。王子様は驚きましたが、その後を必死に追いかけます。
「ど、どうしたのですっ」
「御免なさい、魔法は解けてしまうのです、だから……お別れです」
レンデレラは無理やり笑みを浮かべると、故意に硝子の靴を落としました。それは魔法使いの忠告だからです。賢く冷静なレンデレラは判っておりました。硝子の靴を落とすと言うのは、王子様に自分の後を追ってくれといっているようなもの。鈍感な者でも、大臣に命を下します。「この靴にあう淑女を探してくれ」と……。
王子様は落とした靴を拾い上げ、大きな声で「落ちましたよー」と叫びました。しかし、もうレンデレラは魔法が解けてしまった後です。引き戻すことなんて出来ません。面白いのでレンデレラは、このまま話が聞こえる位置で潜んでいることにしました。すると、計画通り大臣が後を追ってきています。
「王子……その靴は?」
「……さあ。誰かが落としたんだよ。きっと。あ、そだ。探して欲しい人がいるんだよ」
「誰で御座いましょうか」
「レンデレラ。可愛くて、リンと一緒の顔をした、女の子だよ」
.
それから、一ヶ月の歳月が経ちました。家来たちは、一軒一軒見て回りましたが、何処にもレンデレラという少女はいません。手がかりも無く途方にくれていたある日、大臣は一人のお婆さんの家に行き、一つの情報を手にしました。
「あそこの家の娘さんだよ」
礼を言うと、すぐさま城に戻り、その家来は大臣に報告し直接王子様に申し出ることに致しました。すると、王子様はにんまりと微笑を浮かべて「それだ、それ。うん、だから、リンも連れてってよ。いいでしょ、大臣」と足をばたつかせながら言いました。威厳がないというのはこのことでしょう。大臣は仕方なく了承をしました。
そして、家来と共にレンデレラの家を訪問しました。
すると、でてきたのは緑の髪をした女です。王子様は首を横に振り裾を引っ張りました。その姿はまるで女の子です。
「レンデレラはいらっしゃいますでしょうか」
「レンデレラ……ですか」
と呟くと、行き成り赤い髪の女が息を切らして出てきました。
「れ、レンデレラという娘は家には……」
「何でしょうか」
呼ばれてとびでて、レンデレラちゃんとはこのことでしょう。まるでタイミングを見計らったかのようにレンデレラはぬくっとでてきました。
「あ、貴方掃除は……」
「お姉さまに任せておきましたわ」
優雅に言い放つと、レンデレラはみすぼらしい姿でしたが、一気に光を放ちました。王子様もそれに気づいたのか、そそくさと近づいていきます。まるで王子様が女の子で、レンデレラが男の子のような、そんな感じです。
暫しの間、見詰め合っていると急に王子様は耐え切れなくなったのか抱きついてきました。レンデレラはしかと抱き留めています。
「レンー。うわああああっ、もう探したんだからねぇええええ」
「御免、リン……。結婚、しようか」
「当たり前でしょおおおおおっ。もう、遅いんだからああああっ」
行き成りの超展開に一同、呆然としております。
太陽がさんさん降り注ぐ中、可愛らしい二人は無事に結婚いたしましたとさ。まるでそれは、昔からの兄妹かのような、そんな微笑ましい雰囲気で御座いましたとさ。
めでたし、めでたし。