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どうやら、私が思っていたよりも貴方のことを好いていないようです
あたしは差し詰め遠くから傍観している恋のキューピットだろう。たまに二人の仲を進展させたり、はたまた片思いの子を激励したりする。そんな中途半端な役割だった。其れはお節介と捉えられたりしたことや、相手を傷つけたことも沢山あった。しかし、あたしはその感情を抑えることが出来なかった。
他の人が失恋する姿を見たり、涙を流して悔やんでいる姿を見ると、あたしの欲求は満たされる。たまに、あたしに告白してくる奴をもっぱら振ると、快感に満たされる。
徐々に友人は離れていって、学校では孤独な人間となっていた。いや、世間一般的に言うとあたしは美人の部類に入るので、孤独なお姫様と言った方が的確だろう。
しかし、そんな事実を知らずに、あたしの元へ駆け込んでくる人が稀でもいるのである。容姿や性格は勿論ばらばらで、一つ共通点といえば単純馬鹿なところであろう。そんな物好きがあたしの元に来るのは月に一度や二度だけだ。
今日はそんな物好きが来るような気がして胸が高鳴った。勿論、あたしに恋愛相談を受けて恋愛が成就した人は誰もいない。その理由は色々とあるのだが、やはり、毎日儀式をしているからであろう。その儀式とやらも企業秘密としておく。
そして、やっとのことで来たその女の子は大人しく引っ込み思案であたしよりも地味で目立っていない存在な隠れ美少女であった。そんな子の絶望的な顔を見るのがあたしの唯一の楽しみである。
「あのー……、恋愛相談受けてくれるって言う、藤川文子さんですよね」
「ええ。そうですよ」
あたしは作り笑いを浮かべる。しかし、演技が完璧すぎるのか彼女はすっかりあたしに打ち解けてしまった。別にうざったいとか面倒臭いという感情は抱かなかった。だって、彼女は失恋をするからだ。
「二年五組の酒本ちさとです。ちさとは平仮名で書きます」
そして、ぺこんと勢い良く頭を下げる。いいこだな、とは思ったが恋愛を成就させる気は全く起きない。あたしはもう一度笑って「此方こそ宜しくね」と優しく呟いた。
「で、好きな男の子って?」
「さ、サッカー部の加藤君です……」
あたしは瞬時に思い出した。そういえば、あの人の相談はいつも受けているような気がする。そんなに格好良いのかは不明だが、サッカー部でスポーツマンは絶対にチヤホヤされるに違いない。
不適な笑みを浮かべないように心がけ「分かったわ」と気前のよさそうに言った。が、心の中はどす黒い考えで埋め尽くされていた。どうやってこの硝子のような心を砕けさせるか、恋する乙女のような表情をしたのをどうやって壊すか。楽しみで楽しみでしようがなかった。
彼女と色々なことを話し、ちさとさんから一方的に信頼されつつあった。しかし、其れも今日で終わり。彼女が友達から虐げられるのも今日で終わり。彼女はあたしから離れるのだから。
「じゃ、頑張ってね。一発気持ちをぶつけてくるのよ」
そうやって送り出す。彼女は機械のように頷き勢い良く外に飛び出した。手紙を入れておいたので大丈夫だ、きっと加藤君は来てくれるだろう。けれど、彼女はこれから起こる悲劇など知る由もないだろう。
ブラウンのカーテンを開け、校庭を見つめる。すると、彼女と加藤君の姿があった。こうして遠くから見るとお似合いなんだけど、生憎、加藤君には愛しい恋人がいるのよね。其れはあたしだったりするのだけど。
そして、数分も経たないうちに彼女は泣いてその場を去る。その顔が見たくてあたしは今まで恋愛相談を受けてきた。
信じる方が馬鹿なのよ。
「どうやら、あたしが思ってるよりも好いてないようね。ちさとさん」
加藤君に早速別れを告げに行かなきゃ。
静かな教室の扉をあけ、あたしは加藤君が待っている場所へと、静かに向かっていった。
(thanks! 九十九在処様)
(恋愛魔術師にお任せあれ、過去のお話)
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