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恋愛魔術師にお任せあれ
「恋ってさ儚いわよね」
とある喫茶店の出来事だ。一人の女性がはぁっと深い溜め息をついていると、隣にいた黒い洋服に身を纏った女が怪しげにそう呟いた。女性は驚き一瞬息をとめた。なんと彼女は同じ感情を抱いていたからだ。女は呟いた後、彼女を見て艶やかに不気味に笑ってみせた。女性は咄嗟にマスターを見ると、彼は淡々とマグカップをふいているだけだった。
「あら、若しかして貴女も思っていた、とか」
怪しげな女はマスターに何かを告げてから言い出した。喫茶店の中には女二人と男一人しかいない。時間帯も時間帯であるが、目っきり此処の喫茶店は人気がない。常連か物好きかが通い詰める所である。
女性……佐織は、友人からの紹介で此処に通いつめることとなった。其れからは無口なマスターに愚痴を言ったり、温かいコーヒーを毎日飲んだりするようになっていた。其れが、彼女のストレス発散方法だ。
佐織は女の言葉に頷く。すると、女はクスクスと感じの悪く笑い、テーブルに千円札を置いた。それと同時に真っ白な紙を佐織に渡す。
「何か困ったことがあれば連絡して。それじゃ、またね。マスター。佐織さん」
佐織が反応する前に彼女は消えていた。呆然としている佐織とまだマグカップをふいているマスターだけが残された。
「か、彼女は誰なんですか」
立ち上がろうとした腰をまた下ろし、興奮気味に言い放った。マスターはマグカップをふく手を止めて、札束をレジにいれた。
「魔術師、だよ。恋愛魔術師」
無口だった彼はいきなりそう口にした。彼女の手にあった紙は白紙だったが、気がつくと其処には丸まった字でアドレスが記入してあった。そして、其処には「恋愛魔術師 アヤコ」という文字も浮かんでいた。
佐織はくしゃくしゃに丸めてごみ箱に捨てたい衝動に駆られたが、心を正常に保ち、少しは信じてみることにした。恋愛魔術師、アヤコとやらを。
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